【宮城県大崎市】岩出山・しの竹細工体験記

地域文化ライターとして、なぜ“竹”に惹かれたのか

地域文化を追いかけて旅をする中で、私はいつも「なぜこの土地にこの技が根付いたのか?」という問いを胸に歩いている。今回訪れたのは、宮城県大崎市岩出山。かつて伊達政宗が居城を構えた歴史ある町であり、今も静かな風情を残す場所だ。

その岩出山で出会ったのが「しの竹細工」。地元の山に自生する“しの竹”を使い、手仕事で編み上げる工芸品だ。300年以上続く伝統を持ちながら、暮らしに寄り添う道具として今も息づいている。私はこの技に触れたくて、大崎市竹工芸館の扉を開いた。

参考

しの竹細工づくり|一般社団法人みやぎ大崎観光公社|公式サイト|

宮城の伝統的工芸品/岩出山しの竹細工 - 宮城県公式ウェブサイト


竹工芸館の空気──静けさの中に響く「パチッ、パチッ」

有備館駅から歩いて8分ほど。南町商店街の一角にある竹工芸館は、古都の趣を感じさせる佇まい。館内に入ると、まず目に飛び込んできたのは、黙々と作業に励む職人の姿だった。

「パチッ、パチッ」と竹を割る音が、静かな空間に心地よく響く。指導員の千葉さんは、岩出山生まれのベテラン職人。優しい笑顔で「竹細工は、竹を割るところから始まるんですよ」と声をかけてくれた。

私が手にしたのは“ヘゲ”と呼ばれる、皮を剥いだしの竹。さらさらとした手触りに、素材の生命力を感じる。この竹は、冬の間に職人が自ら山に入り、切り出して乾燥させたもの。春まで自然乾燥させ、湿気のない場所で保管するという。素材づくりから始まる工芸は、まさに“自然との対話”だ。


実際に編んでみる

今回挑戦したのは「一輪挿し」の制作。丸みのある形が可愛らしく、“みの虫”とも呼ばれる作品だ。まずは竹を交互に重ねて編み込む作業から始まる。千葉さんの手元を見ながら真似してみるが、思った以上に難しい。

竹が曲がったり、ねじれたりして、思うように形にならない。千葉さんは「目で見ようとすると難しいですよ。指が見ていると思ってください」と教えてくれた。その言葉の意味が、少しずつわかってくる。力を抜いて、竹の流れに身を任せると、編み目が自然に整っていく。

編みながら感じたのは、竹の“呼吸”。一本一本に個性があり、硬さやしなり具合が違う。それを受け止めながら編むことで、作品に“自分の時間”が宿っていくような気がした。


しの竹細工の歴史

岩出山のしの竹細工は、江戸時代に第4代城主・伊達村泰公が京都から竹細工職人を招いたことに始まると言われている。武士の手仕事として奨励され、やがて農家の冬の内職として定着。300年以上にわたり、地域に根付いてきた。

使われる“しの竹”は、岩出山周辺の山に自生する細身の竹。寒冷地のしの竹は、柔軟で弾力があり、編みやすく、耐久性にも優れている。かつては米びつやざる、籠など、暮らしの道具として広く使われていた。

今では、花器やインテリア雑貨としても人気があり、竹工芸館では作品の展示・販売も行われている。素朴で美しい編み目、手に馴染む質感。そこには、土地の素材と人の技が融合した“暮らしの美”がある。


職人の言葉──「竹がなければ、編むこともできない」

千葉さんは、竹細工の魅力をこう語ってくれた。

「竹がなければ、編むこともできない。素材があってこその技なんです。だから、山に入って竹を切るところから始める。それが、しの竹細工の原点です」

この言葉には、地域文化の本質が詰まっている。技術だけでなく、素材への敬意。自然と共に生きる知恵。そして、それを次世代につなげていく志。

竹工芸館では、昭和23年に設立された指導所を前身とし、現在は後継者育成や魅力発信の拠点として活動している。「若手のつくり手を増やし、作品の質を高めていくことが今後の目標です」と語る千葉さんの表情は、静かだが力強かった。

大崎市岩出山ってどんな町?

岩出山は、宮城県北西部に位置する大崎市の一地区。鳴子温泉郷にもほど近く、山と川に囲まれた静かな町だ。かつては仙台藩の初代藩主・伊達政宗が居城を構えた地であり、城下町として栄えた歴史を持つ。

今も町には武家屋敷の面影が残り、有備館や旧岩出山城跡など、歴史的な建造物が点在する。観光地としての派手さはないが、歩いていると「暮らしの中に文化がある」ことを実感できる。しの竹細工が根付いたのも、こうした土地の静けさと人の手仕事が自然に結びついたからだろう。

伊達政宗と大崎市岩出山

しの竹細工の起源は、江戸時代初期にまで遡る。第4代岩出山城主・伊達村泰公が、京都から竹細工職人を招いたことが始まりとされている。武士の手仕事として奨励され、やがて農家の冬仕事として広まった。

伊達政宗自身も、岩出山に居城を構えた時期があり、この地を仙台藩の文化的基盤として整備した。政宗が残した文化の土壌が、竹細工という形で今も息づいている。つまり、しの竹細工は“政宗の文化政策の延長線上”にあるとも言えるのだ。

よくある質問(FAQ)

Q. 体験は予約が必要ですか?

  1. 事前予約が推奨されています。公式サイトまたは電話で申し込み可能です。

Q. 所要時間は?

  1. 作品によって異なりますが、初心者向けの一輪挿しは約2時間程度です。

Q. 持ち帰りはできますか?

  1. はい、完成した作品はその場で持ち帰ることができます。

Q. 子どもでも体験できますか?

  1. 小学生以上であれば可能です。親子での参加も歓迎されています。

Q. 駐車場はありますか?

  1. 施設前に普通車5台分の無料駐車スペースがあります。

Q. 休館日は?

  1. 毎週水曜日が休館日です。開館時間は9:00〜17:00。

参考

しの竹細工/大崎市

周辺の観光地

しの竹細工体験の前後に訪れたいスポットも充実している。

  • 有備館と庭園:伊達家の学問所として使われた建物。池泉回遊式庭園が美しい。
  • 旧岩出山城跡:政宗が築いた城の跡地。春は桜の名所としても知られる。
  • 感覚ミュージアム:五感をテーマにした体験型美術館。子ども連れにも人気。
  • 田子谷館跡・真山館跡:中世の城館跡。歴史好きにはたまらないスポット。
  • 鳴子温泉郷:車で30分ほど。温泉とこけし文化が融合した湯の町。

岩出山は、竹細工だけでなく、歴史・芸術・自然がバランスよく揃った町。静かな時間の中で、文化の層をじっくり味わえる場所だ。


体験を終えて

2時間ほどの体験を終え、完成した一輪挿しを手に取る。丸みのある形、交互に重ねた編み目、竹の自然な色合い。世界に一つだけの“自分の時間”が編み込まれた作品だ。

竹細工は、ただの手仕事ではない。素材と向き合い、土地の記憶に触れ、職人の技をなぞることで、自分自身もその文化の一部になる。岩出山のしの竹細工は、そうした“文化の編み目”を持つ技なのだ。

地域文化ライターとして、こうした体験をもっと多くの人に伝えたい。竹に触れ、土地の空気を吸い、職人の言葉に耳を傾ける──それは、文化を“知る”のではなく、“生きる”ことなのだ。

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