【宮城県仙台市】作並こけし絵付け体験記in作並温泉

仙台市の奥座敷、作並温泉。広瀬川の源流が流れるこの静かな温泉郷は、古くから湯治場として親しまれてきた土地だ。山あいに抱かれた町には、どこか懐かしい空気が漂っている。私は地域文化ライターとして、土地に根ざした技や物語を探して歩いているが、今回この地で出会ったのが「作並こけし」だった。

東北各地に伝わるこけし文化の中でも、作並系は太胴・細首・大きな頭という独特の造形と、重ね菊などの素朴な模様が特徴的。その表情には、職人の手の温もりと土地の空気が宿っているように感じられる。

訪れたのは、作並温泉街にある「平賀こけし店」。代々職人が技を継承してきたこの店では、こけしの絵付け体験ができる。轆轤で挽かれた白木の木地に、自分の手で顔や模様を描いていく時間は、観光というより“文化との対話”に近い。筆先に集中しながら木地と向き合うことで、こけしが単なる民芸品ではなく、土地の記憶を語る存在であることを実感した。

この記事では、絵付け体験の様子を中心に、作並こけしの魅力や背景文化、そして周辺の観光情報までを丁寧に綴っていく。

参考

平賀こけし店 絵付け体験

作並こけし 絵付け体験|東北の観光スポットを探す | 旅東北 - 東北の観光・旅行情報サイト

作並こけし 絵付け体験 | 【公式】仙台旅先体験コレクション

作並温泉ってどんなところ?

仙台市街から車で40分ほど。山あいにひっそりと佇む作並温泉は、広瀬川の源流が流れる静かな湯の町だ。江戸時代から湯治場として親しまれてきた歴史があり、今もその面影を残す老舗旅館が点在している。春は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、四季の移ろいが美しく、訪れるたびに違う表情を見せてくれる。

観光地としての派手さはないが、滞在することでじわじわと染み込んでくる“土地の静けさ”が魅力だ。温泉に浸かり、川の音に耳を澄ませるだけで、日常の喧騒が遠のいていく。そんな作並の町角に、こけし文化が静かに息づいている。

そもそもこけしとは

こけしは、東北地方の温泉地を中心に生まれた木製の人形。轆轤で挽いた木地に、筆で顔や模様を描いて仕上げるという、素朴ながらも奥深い工芸だ。江戸末期から明治初期にかけて、湯治客の土産物として広まり、各地で独自の系統が育まれてきた。

こけしは単なる飾りではない。描いた人の気持ちがそのまま表情に現れ、手にした人の暮らしにそっと寄り添う。土地の空気、職人の手の温もり、旅人の記憶──それらが一本のこけしに編み込まれている。こけしは、描くことで語りかけてくる“文化の器”なのだ。

作並こけしの特徴

作並系こけしは、太胴・細首・大きな頭という独特の造形が特徴的。顔はやや面長で、目元が優しく、どこかユーモラスな雰囲気を漂わせている。胴模様には“重ね菊”や“胴巻き”などが描かれ、筆の勢いと素朴な美しさが共存している。

仙台市内でこの系統を継承しているのが「平賀こけし店」。代々職人が技を受け継ぎ、店内には歴代のこけしがずらりと並ぶ。絵付け体験では、こうした作並こけしの伝統に触れながら、自分だけの一本を描くことができる。描くことで、こけしの個性と自分の感情が重なっていく。

絵付け体験

店の引き戸を開けると、ふわりと木の香りが鼻先をくすぐった。棚には大小さまざまなこけしが並び、どれも少しずつ顔つきが違う。目の描き方、口元の角度、胴模様の筆の勢い──量産品にはない、手仕事の温度がそこにはあった。

ここは作並温泉街にある「平賀こけし店」。仙台市内で唯一、作並系こけしの技を継承している工房だ。店主の平賀さんは、代々こけしを作り続けてきた職人の家系。言葉少なだが、筆を持つと空気が変わる。そんな空間で、私は絵付け体験に挑戦した。

机の上には、轆轤で挽かれた白木のこけしが一本。手に取ると、思った以上に軽く、すべすべとした肌触りが心地よい。まずは顔を描く。目と眉、口の位置を決めるだけで、こけしの表情が変わるという。筆を持つ手が自然と緊張する。

「こけしは、描いた人の気持ちがそのまま顔に出るんですよ」と平賀さんがぽつりと言った。その言葉に背筋が伸びる。筆先を木地にそっと置くと、染料がじわりと広がり、木がそれを吸い込んでいく。目を描いたときは少し硬くなってしまったが、口元に筆を入れる頃には、肩の力が抜けていた。

胴模様は自由に描いていいと言われたが、私は店内に並ぶこけしを参考に、作並系特有の“重ね菊”をなぞることにした。筆の流れを平賀さんに尋ねながら、少しずつ模様を重ねていく。描くというより、木と対話しているような感覚だった。筆を走らせるたびに、木地が語りかけてくるような気がした。

描き終えたこけしを手に取ると、どこか自分に似た表情をしているように感じた。旅先で自分の手で作ったものが残るというのは、何よりの記憶になる。こけしは、描いた人の時間と気持ちが形になった“記憶の器”なのだ。

この体験を通して、こけしが単なる民芸品ではなく、土地の空気や職人の技、そして旅人の感情が編み込まれた文化の結晶であることを実感した。筆先に集中する静かな時間の中で、私は作並という土地と、深くつながっていた。

よくある質問(FAQ)

Q. 絵付け体験は予約が必要ですか? A. 事前予約がおすすめです。電話または公式サイトから申し込みできます。

Q. 所要時間は? A. 約1時間ほど。描く内容によって多少前後します。

Q. 子どもでも体験できますか? A. 小学生以上であれば参加可能。親子での体験も歓迎されています。

Q. 完成品は持ち帰れますか? A. はい、その場で持ち帰ることができます。乾燥も含めて仕上げてくれます。

Q. 駐車場はありますか? A. 店舗前に数台分の無料駐車スペースがあります。

周辺の観光地

絵付け体験の前後に立ち寄りたいスポットも豊富だ。まずおすすめしたいのが「ニッカウヰスキー仙台工場」。見学ツアーでは蒸留設備や熟成庫を間近に見られ、試飲も楽しめる。ウイスキー好きにはたまらない場所だ。

自然を感じたいなら「広瀬川源流探勝路」へ。春の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色と、季節ごとに異なる表情を見せてくれる。静かな遊歩道を歩きながら、作並の自然に身を委ねる時間は格別だ。

温泉街には老舗旅館も点在しており、日帰り入浴が可能な施設もある。絵付け体験の後に湯に浸かれば、心身ともにほぐれるだろう。さらに足を延ばせば「定義如来 西方寺」もある。五重塔と名物の油揚げが人気の信仰の地で、地元の人々の暮らしと祈りに触れることができる。

作並は、こけしだけでなく、自然・温泉・酒・信仰が融合した“文化の交差点”。静かな時間の中で、土地の記憶に触れる旅ができる場所だ。

最後に

筆を持ち、木地に向き合う時間は、思っていた以上に静かで濃密だった。描くという行為は、ただの作業ではなく、自分の気持ちや集中力がそのまま形になるものだ。こけしの顔に宿る表情は、描いた人の心を映す鏡のようで、職人の「こけしは描いた人の心がそのまま顔に出る」という言葉が、体験を通して深く染み込んできた。

作並こけしは、湯治文化の中で育まれた民芸であり、土地の自然や人の営みが編み込まれた“文化の器”だ。その背景には、東北の風土、職人の技、そして旅人との交流がある。絵付け体験を通して、こけしが単なる土産物ではなく、土地の記憶を語る存在であることを改めて知ることができた。

また、作並温泉はこけしだけでなく、自然・温泉・酒・信仰が融合した文化の交差点でもある。ニッカウヰスキー仙台工場や広瀬川源流探勝路など、周辺には魅力的なスポットが点在し、静かな時間の中で文化に触れる旅ができる。

地域文化ライターとして、こうした“土地に根ざしたものづくり”に触れることは、文化の深層を知る旅でもある。次は、こけしの模様に込められた意味や、作並系の系譜をたどる旅もしてみたい。文化は、描くことで見えてくるものがある。

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