【宮城県仙台市】全国有数の発酵県「宮城」仙台市の発酵食品を訪ねるin佐々重本店・宮城野納豆・Fermenteria

仙台市──東北の玄関口として知られるこの都市は、政令指定都市でありながら、どこか柔らかな空気をまとっている。広瀬川の流れ、青葉山の稜線、そして街の随所に残る城下町の面影。私はこの町に、発酵文化を探しにやってきた。

目的は、仙台味噌を中心とした発酵食品に触れること。仙台市は、伊達政宗が築いた城下町であり、彼が軍用の保存食として味噌の自給を目指し「御塩噌蔵(ごえんそぐら)」を設けたことが、仙台味噌の始まりとされている。現在の仙台第二高校近くにその跡地があるという。

仙台味噌は、米麹と大豆を使った辛口の赤味噌で、熟成期間が長く、少量でも深い旨味が出るのが特徴。江戸時代には江戸藩邸の士卒3,000人の食糧として仙台から運ばれ、庶民の間でも“味噌屋敷”と呼ばれるほど評判を呼んだ。

今回私は、仙台市内の味噌蔵や発酵食品専門店を訪ね、実際に購入し、食べてみることにした。発酵は、微生物と人間が共に生きるための知恵であり、土地の記憶を継承する文化でもある。仙台の街を歩きながら、私はその味に触れ、物語を味わった。

発酵とは

発酵とは、微生物の働きによって有機物が分解・変化し、食品の風味や栄養価が高まる現象である。日本においては、麹菌・酵母・乳酸菌などの微生物が活躍し、味噌・醤油・酒・漬物・納豆などの発酵食品が古来より作られてきた。これらは単なる保存食ではなく、腸内環境を整え、免疫力を高める“生きた食べ物”として、現代の健康志向にも深く結びついている。

発酵食品には、腸活に有効な乳酸菌や酵母、消化を助ける酵素、代謝を促すビタミンB群、抗酸化作用を持つポリフェノールなどが豊富に含まれている。特に味噌には、アミノ酸やペプチドが多く含まれ、腸内の善玉菌を増やし、免疫細胞の活性化を促す働きがあるとされている。腸は「第二の脳」とも呼ばれ、免疫細胞の約70%が集中する重要な器官である。腸活を意識した発酵食品の摂取は、体調管理のみならず、メンタルの安定や温活(体を内側から温める習慣)にも寄与する。

また、発酵は文化的側面も持ち合わせている。微生物と人間が共に生きるための知恵であり、季節の移ろいとともに味が変化する“時間の味”である。麹を育て、味噌を仕込み、酒を醸す──その一連の過程には、自然との対話と人の手仕事が存在し、発酵食品は土地の風土と人々の暮らしが織りなす“食べる文化財”と呼ぶにふさわしい。

仙台市のように米と大豆の生産が盛んな地域では、発酵文化が日常に根付き、各家庭で味噌を仕込む風景も珍しくない。微生物の力を借りて素材の旨味を引き出すことは、自然と共に生きる日本人の知恵の結晶であり、未来に継承すべき食文化である。発酵は、健康と文化をつなぐ架け橋として、これからの暮らしにも欠かせない存在である。

参考

JAいるま野「特別特集-発酵美人のすすめ

農林水産省「「発酵」の不思議

なぜ仙台に発酵文化が根付いたのか

地理的にも、仙台は米と大豆の生産に適した土地であり、広瀬川や名取川などの水系が清らかな水をもたらす。発酵に必要な三要素──水・米・大豆──が揃っているのが仙台の強みだ。宮城県は北海道に次いで、大豆の作付面積が全国で2番目の生産量を誇る。さらに、冬の寒さと夏の湿度が、味噌や酒の発酵に適した環境を生み出している。

仙台市は、仙台平野の中心に位置し、周囲には肥沃な水田地帯が広がっている。仙台平野は、古くから稲作と大豆栽培が盛んな地域であり、江戸時代には仙台藩の穀倉地帯として機能していた。こうした農業基盤が、味噌や醤油、酒といった発酵食品の原料供給を支えてきた。

さらに、宮城県北部には発酵の町として知られる大崎市があり、味噌・醤油・酒・納豆・麹などの専門店が各市町村に存在する。大崎耕土は、世界農業遺産にも認定された地域であり、発酵文化が日常に根付いている全国有数の発酵地帯だ。仙台市はその南端に位置し、大崎の発酵文化と連携しながら、都市部ならではの発酵の多様性を育んできた。

仙台味噌の歴史は、伊達政宗が軍用保存食として味噌の自給を目指し「御塩噌蔵(ごえんそぐら)」を設けたことに始まる。政宗の味噌は、他藩の味噌が腐敗する中でも変質せず、味も優れていたため、諸大名の間で評判となったという逸話も残っている。こうした歴史と風土が、仙台市に発酵文化を根付かせたのだ。

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参考

農林水産省「仙台味噌(せんだいみそ)|にっぽん伝統食図鑑 - 宮城県」「宮城県 納豆(なっとう) - にっぽん伝統食図鑑

実際に購入・試食した仙台の発酵食品

仙台市内で発酵食品を探すなら、まずは「仙台味噌」を扱う老舗を訪ねたい。私は、青葉区の住宅街にある「佐々重本店」を訪れた。創業は明治時代、仙台味噌の伝統を守り続ける蔵元だ。店内には、木桶仕込みの「仙台味噌」や「特吟味噌」、味噌漬け、味噌だれなどが並び、どれも無添加・天然醸造。スタッフの方が「うちは熟成期間が長いので、味が深くて香りが強いんです」と教えてくれた。

私は「特吟味噌」と「味噌漬け胡瓜」を購入。帰宅後、味噌は味噌汁に、味噌漬けは炊きたてのご飯と一緒に食べてみた。特吟味噌は、皮を取り除いた大豆と米麹を使い、塩分比率を高めたあっさり甘口の赤味噌。濃厚で香り高く、出汁なしでも十分に旨味が出る。胡瓜の味噌漬けは、発酵の酸味と甘みが絶妙で、箸が止まらない美味しさだった。

所在地: 〒980-0014 宮城県仙台市青葉区本町2丁目8−5
電話番号: 022-264-3310

次に訪れたのは、仙台駅構内にある「Fermenteria(ファーメンテリア)」である。ここは、発酵をテーマにした都市型ラウンジであり、地元食材を使った発酵オードブルやスパークリング日本酒などが提供されている。私は「米麹甘酒」と「味噌チーズケーキ」を購入した。甘酒はノンアルコールで自然な甘みがあり、朝の腸活に最適である。味噌チーズケーキは、塩味と甘みのバランスが絶妙で、発酵の力をスイーツで感じられる逸品であった。

所在地: 〒980-0021 宮城県仙台市青葉区中央1丁目1−1 仙台駅 1F tekute daining SENDAI STATION BREWERY Fermenteria
電話番号: 022-797-0885

仙台市内で発酵食品を探す旅の中で、私は「宮城野納豆製造所」の納豆も購入した。創業100年以上の老舗であり、伝統的な製法を守りながら、現代の食卓にも合う納豆を提供している。今回選んだのは、「宮城野納豆 三角6個入り」。しなの木の経木(きょうぎ)で包まれた三角形の納豆は、見た目にも美しく、開けた瞬間に木の香りがふわりと立ち上がる。

この納豆は、ミヤギシロメ大豆を使用し、香り高く、粘りが強く、粒はふっくらとした仕上がり。経木の香りと大豆の甘みが調和し、発酵食品としての力強さと繊細さを併せ持っていた。私は、炊きたてのご飯にのせて、刻みネギと少量の醤油を加えて食べてみた。口に含むと、木の香りと納豆の旨味が広がり、まるで森の中で食事をしているような感覚に包まれた。宮城野納豆は文化的にも高い評価を受けており、「仙台の納豆製造技術」は文化庁の「日本の伝統的な知恵」データベースにも登録されている。経木包みの技術や発酵管理の工夫は、地域に根ざした知恵の結晶であり、未来に継承すべき食文化である。

〒983-0047 宮城県仙台市宮城野区銀杏町4−29 宮城野納豆製造所

電話番号:0222567223

仙台の発酵食品は、どれも“生きている”と感じた。微生物が働き、人の手が見守り、時間が味を育てる──その過程が、味の奥行きとなって舌に届いてくる。食べることは、土地の記憶を味わうこと。仙台の発酵文化は、そんな静かな感動を与えてくれた。

参考

宮城野納豆製造所|納豆・納豆菌

まとめ

仙台市の発酵文化は、都市の喧騒の中に静かに息づいていた。佐々重の仙台味噌、醸室の甘酒とスイーツ、スーパーで見つけた味噌だれ──それらは、微生物と人間の共生によって生まれる“生きた味”であり、土地の記憶を継承する文化でもある。

仙台味噌は、伊達政宗が軍用保存食として自給を目指し「御塩噌蔵(ごえんそぐら)」を設けたことに始まる。政宗の味噌は、他藩の味噌が腐敗する中でも変質せず、味も優れていたため、諸大名の間で評判となったという逸話も残っている。こうした歴史が、仙台味噌の誇りと品質を今に伝えている。

地理的にも、仙台は仙台平野の中心に位置し、広瀬川や名取川の水系が清らかな水をもたらす。米と大豆の生産に適した土地であり、冬の寒さと夏の湿度が、味噌や酒の発酵に適した環境を生み出している。さらに、宮城県北部には発酵の町・大崎市があり、味噌・醤油・酒・納豆・麹などの専門店が各市町村に存在する。仙台市はその南端に位置し、発酵文化の多様性を育んできた。

発酵は、保存技術であり、健康の源であり、文化の記憶でもある。微生物が働き、人が見守り、時間が味を育てる──その過程には、自然との対話がある。仙台の発酵食品は、食べる人の身体だけでなく、心にも静かに語りかけてくる。

私はこの旅を通じて、発酵が持つ力を改めて実感した。それは、体を整える力であり、心を癒す力であり、土地と人をつなぐ力でもある。次は、仙台味噌の仕込み現場にもっと深く入り込み、発酵の奥深さに触れてみたい。そしてまた、仙台の“生きた味”に出会いに行こうと思う。

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