【宮城県仙台市】地名「虎屋横丁」の読み方・語源・由来をたずねるin国分町
仙台市青葉区、国分町と東一番町の間にひっそりと通る短い路地がある。その名は「虎屋横丁(とらやよこちょう)」。今では飲食店やバーが軒を連ねる歓楽街の一角だが、かつてこの通りには、町の人々に親しまれた木彫りの虎がいた。江戸時代、国分町の東南角にあった薬種屋「虎屋」の店頭に飾られていたその虎は、通りの名の由来となり、明治天皇が撫でたことから「御撫之虎(おなでのとら)」としても語り継がれている。虎屋といえば、東京赤坂にある和菓子の虎屋が有名だが、全国には虎屋という屋号を冠する旅館やお店が多くあり、この薬種屋「虎屋」もその影響を受けているのかもしれない。
虎屋横丁は、仙台の町の記憶が息づく場所だ。明治期には芸者置屋が並び、「虎屋横丁の名にこそ残れ、色香床しい花の街」と歌われた。一時期は「猫屋横丁」とも呼ばれ、芸者の別名「猫」にちなんだ艶やかな文化が育まれた。私はこの地名の由来を確かめたくて、実際に虎屋横丁を歩いてみた。路地の空気に触れながら、仙台の歴史と人々の記憶を辿る旅が始まった。
参考:資料館ノート|仙台市歴史民俗資料館、ミヤギテレビ「OH!バンデス - 虎屋横丁の名の由来」、仙台市「第23集 仙台の由緒ある町名・通名 辻標のしおり」
所在地:宮城県仙台市青葉区
虎屋横丁の読み方と由来・語源
「虎屋横丁(とらやよこちょう)」という地名は、藩政末期に生まれたとされる。国分町の東南角にあった薬種屋「虎屋」が、店頭に木彫りの虎を飾っていたことから、通りの名が定着した。虎屋横丁の語源・由来である。江戸後期に虎屋が廃業した後も、虎の置物は町の有力者の手に渡り、明治9年(1876年)に東北巡幸中の明治天皇がその虎の頭を撫でたという逸話が残る。
この虎は「御撫之虎」と呼ばれ、町の誇りとして語り継がれてきた。大正期には仙台市内の住民が購入して自宅で保管していたが、平成23年の東日本大震災で被災し、平成28年に仙台市歴史民俗資料館へ寄贈された。現在は同館のロビーで常設展示されており、虎屋横丁の名の由来を静かに語りかけてくる。
横丁とは何か
「横丁」とは、大通りから枝分かれした細い道を指すが、そこには人々の暮らしや文化が凝縮されている。虎屋横丁も、国分町と東一番町を結ぶ短い路地でありながら、仙台の歓楽街として独自の文化を育んできた。明治期には芸者置屋が並び、艶やかな灯りの下で芸者衆が行き交った。「猫屋横丁」と呼ばれた時代もあり、芸者の別名「猫」にちなんだ呼び名だった。
仙台には他にも多くの横丁がある。たとえば「文化横丁」は、昭和の面影を残す飲食店街として知られ、文学や芸術にちなんだ店名が並ぶ。「稲荷小路」「虎屋横丁」「壱弐参(いろは)横丁」など、横丁の名には町の記憶と文化が刻まれている。
虎屋横丁を実際に訪れる
虎屋横丁のある仙台市青葉区国分町は、東北最大の規模をほこる歴史ある歓楽街だ。いまや全国に広がる炉端焼きの発祥店があったり、戦前から続く居酒屋もあったりと、通うだけで伝統が垣間見える。
虎屋横丁を歩いてみると、今では飲食店やバーが軒を連ねる賑やかな通りになっている。夜になるとネオンが灯り、若者たちが集う姿も見られる。だが、通りの名に込められた歴史を知ると、その風景が少し違って見えてくる。
通りの東端から西へ歩くと、わずか数分で抜けられるほどの短い道だ。かつてこの通りに薬種屋があり、木彫りの虎が人々を見守っていたことを思うと、路地の空気がどこか懐かしく感じられる。焼き鳥屋や郷土料理酒屋、若者向けの現代風居酒屋など、私が学生の時に通っていた時からあまり様変わりしていない。
由来となった虎の姿は今、仙台市歴史民俗資料館のロビーに展示されている。高さ73センチ、奥行き70センチの木製の虎は、象牙の牙と透明な目を持ち、どこか愛嬌のある表情をしている。
資料館では、虎の由来や町の歴史を丁寧に紹介しており、虎屋横丁の名が単なる地名ではなく、町の記憶そのものであることを実感できた。虎は町の人々に撫でられ、語られ、そして今も静かに仙台の歴史を見守っている。
仙台市歴史民俗資料館(旧歩兵第四連隊兵舎 )
所在地:〒983-0842 宮城県仙台市宮城野区五輪1丁目3−7
電話番号:0222953956
まとめ
虎屋横丁という地名は、仙台の町に生きる記憶のかたまりだ。江戸時代の薬種屋「虎屋」、その店頭に飾られた木彫りの虎、そして明治天皇が撫でたという逸話——それらが重なり合って、町の名となった。今では歓楽街として賑わうこの通りも、かつては薬の香りと人々の祈りが漂う場所だった。
「横丁」とは、町の裏側にあるもう一つの顔。人々の暮らしや文化が息づく路地であり、虎屋横丁もその例に漏れない。芸者が行き交い、猫屋横丁と呼ばれた時代もあった。町の名は変わらずとも、そこに流れる空気は時代とともに変化していく。
仙台には文化横丁、壱弐参横丁、稲荷小路など、個性豊かな横丁が点在している。それぞれが町の記憶を宿し、今も人々の足を誘っている。虎屋横丁はその中でも、虎という象徴を通して仙台の歴史と人々の心をつなぐ特別な場所だ。
実際に歩いてみて、私は虎屋横丁がただの通りではないことを実感した。それは、仙台という町が育んできた文化と記憶の象徴であり、虎の姿を通して人々の心に残る物語だった。虎は今も、資料館のロビーで静かに佇みながら、町の歴史を語り続けている。