【イベントレポート大阪】上本町にて「七夕の煎茶サロン」開催
目次
「七夕の煎茶会サロン」― 織姫と彦星のように、ひと夏の一期一会を味わう
2024年、大阪市上本町の骨董店で、七夕にちなんだ煎茶会サロンが開かれた。 席主は地域文化ディレクターの東夷庵。京都や奈良での茶会を重ねてきた彼が、今回はあえて大阪・上本町を選んだのには理由がある。
「煎茶趣味から煎茶道が生まれたのは、この上本町だと聞きました。ならば、この土地で“趣味”の原点に立ち返る茶会をやってみたいと思ったんです」
そう語る東夷庵の言葉には、土地への敬意と、煎茶の自由さや文化の楽しさを共有したいという静かな意志があった。
骨董屋でひらく、七夕の茶会
会場となった骨董店において、東夷庵は普段から不定期で日本茶のワークショップを開いている。 店主は関西の地域文化に詳しく、浪速文化の面白さを語らせれば止まらない人だ。 その店主から日頃聞かされていた「大阪の文化の奥行き」を、もっと多くの人に知ってほしい──そんな思いも、この茶会の背景にあった。
格子戸を開けると、古い棚に並ぶ器たちが、まるで七夕の夜空の星のように静かに光を放っていた。 硝子越しに差し込む夏の光が、古伊万里の皿や鉄瓶の肌に反射し、時間がゆっくりと流れ始める。
七夕の茶会ということで、笹の葉が一枝、床の間に飾られていた。 この笹の葉は東夷庵が竹の名産地である長岡京からとってきたもの。短冊には、参加者がそれぞれ書いた願いが揺れている。 「織姫と彦星のように、今日ここで出会った人たちが、一期一会の時間を過ごせますように」 そんな東夷庵の想いが、空間全体に静かに満ちていた。
上本町という土地が持つ“煎茶の記憶”
上本町は、江戸後期に煎茶趣味が広がり、やがて煎茶道として体系化されていった土地だ。 文人たちが集い、詩を詠み、書を広げ、茶を淹れながら語り合った──そんな空気が、今も町のどこかに残っている。
「煎茶は、もともと“道”ではなく“趣味”だったんです。 好きな器を選び、好きな茶葉を淹れ、好きな人と語らう。 その自由さが、煎茶の本質だと思っています」
東夷庵の言葉に、参加者たちは静かに頷いていた。 形式に縛られず、しかし一つひとつの所作には心を込める。 その姿勢が、上本町という土地の記憶と響き合っていた。
七夕の玉露
この日の茶は、京都・宇治の玉露。 湯温を丁寧に調え、茶葉がゆっくりと開くのを待つ時間は、まるで願いが天に昇っていくのを見守るようだった。
茶器は、骨董店の棚から東夷庵が選んだもの。 京焼の湯冷まし、信楽の急須、そして江戸後期の染付の煎茶碗。 それぞれが七夕の夜空の星のように、ひとつとして同じものがない。
和菓子は、京都の老舗和菓子屋「亀谷清永」から取り寄せた「星づく夜」。 葛の透明感と白餡のやわらかさが、玉露の旨味と重なり、夏の夜の余韻を思わせた。
茶会サロンという“場”が生むもの
この茶会サロンは、実は今回が初めてではない。 骨董店を舞台に、これまで何度か小さな茶会が開かれてきた。 参加者は毎回違うが、どの回にも共通しているのは、茶を通じて人が自然に語り合い、文化が静かに立ち上がるということだ。
「大阪の文化は、表面的な派手さだけじゃなく、深いところに“人の温度”があるんです」 骨董店の主人がそう語ったことがある。
その言葉の意味が、この日の茶会で少しだけ分かった気がした。 茶を淹れる音、器を置く音、誰かの笑い声──それらが重なり合い、七夕の夜のような、儚くも美しい時間が生まれていた。
おわりに
茶会の終わりに、東夷庵はこう締めくくった。
「七夕は、年に一度だけ出会う日。 今日ここで出会った時間も、同じように二度と戻らない。 だからこそ、茶は一期一会なんです」
参加者たちは短冊を手に取り、それぞれの願いを胸に帰っていった。 織姫と彦星のように、またどこかで出会えるかもしれないし、もう二度と会わないかもしれない。 それでも、この日の茶会で生まれた静かな余韻は、きっと誰かの心に残り続ける。
地域文化ラボでは、今後も大阪・京都・宮城など各地で、土地の記憶と人の感性を結ぶ茶会サロンを続けていく予定だ。 次の一服がどんな風景の中でひらかれるのか──それを楽しみにしている。
投稿者プロ フィール

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地域伝統文化ディレクター
宮城県出身。京都にて老舗和菓子屋に勤める傍ら、茶道・華道の家元や伝統工芸の職人に師事。
地域観光や伝統文化のPR業務に従事。
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