【宮城県加美町】日本有数の発酵の町「加美町」と世界農業遺産から生まれた発酵食品を食べる
宮城県加美町──この町の名を聞いて、発酵文化を思い浮かべる人はどれほどいるだろうか。私自身、加美町を訪れるまでは、どちらかといえば「山と田んぼの静かな町」という印象だった。だが、調べていくうちに、加美町が世界農業遺産「大崎耕土」の西の発酵文化の中心地であることを知り、驚きとともに興味が湧いた。
中新田地区には、数百メートルの範囲に3軒の酒蔵が並び、味噌・醤油の醸造所、麹屋もそれぞれ1軒ずつ存在する。これは、全国的に見ても稀有な密度だ。水が良く、米が育ち、大豆の産地でもある加美町は、発酵に必要な素材と環境が揃った“発酵の里”なのだ。
今回私は、加美町の発酵文化を探る旅に出た。訪れたのは、明治36年創業の今野醸造。自社農場で育てた米と大豆を使い、味噌・醤油・塩麹などを丁寧に仕込む蔵元だ。そして、町内の酒蔵で地酒を買い求め、発酵の味を体で感じてみた。
発酵は、微生物と人間が共に生きるための知恵であり、土地の記憶を継承する文化でもある。加美町の静かな風景の中で、私はその味に触れ、物語を味わった。
参考
宮城旬鮮探訪「宮城県産の発酵食品を食べてみよう!|テーマ|【公式】食材王国 」
加美町「「大崎耕土」世界農業遺産」
加美町と世界農業遺産
加美町は、世界農業遺産「大崎耕土」の構成地域のひとつ。大崎耕土は、江合川・鳴瀬川の水系を活かした水田農業と、地域に根ざした農耕文化が評価され、2017年に国際的な認定を受けた。加美町はその西端に位置し、発酵文化の拠点として重要な役割を担っている。
この地域では、米と大豆の生産が盛んで、発酵食品の原料が豊富に揃う。さらに、冬の寒さと夏の湿度が、味噌や酒の発酵に適した環境を生み出している。中新田地区には、数百メートルの範囲に3軒の酒蔵が並び、味噌・醤油の醸造所、麹屋もそれぞれ1軒ずつ存在する。この密度は、全国的にも稀有なものだ。
世界農業遺産の認定は、単なる農業技術の評価ではない。それは、地域の暮らしと文化、そして自然との共生のあり方が、未来に継承すべき価値を持つという証でもある。加美町の発酵文化は、まさにその象徴だ。
発酵は、自然と人間が共に生きるための知恵であり、土地の風土と密接に結びついている。加美町は、その条件をすべて満たしていた。そして何より、地元の人々が発酵食品を日常的に使い、季節の移ろいとともに味を楽しんできたことが、文化としての発酵を育ててきたのだ。
参考
世界農業遺産大崎耕土「加美エリア」
加美町と発酵文化
加美町は、宮城県北西部に位置する自然豊かな町。大崎耕土の西端にあたり、米と大豆の生産が盛んな地域として知られている。清らかな水系、寒暖差のある気候、そして発酵に適した湿度──これらの条件が揃った加美町は、発酵食品づくりに理想的な土地だ。
中新田地区には、数百メートルの範囲に3軒の酒蔵が並ぶ。田中酒造店では、地元米を使った「天上夢幻」シリーズが人気。特に純米吟醸は、すっきりとした飲み口と米の旨味が調和し、食中酒としても優れている。中勇酒造店の「真夏鶴」は、爽やかな香りと軽快な口当たりが特徴で、地元の食卓に寄り添う酒として親しまれている。山和酒造店は、若い杜氏による革新的な酒造りで注目されており、「山和 純米吟醸」は香り高く、繊細な味わいが魅力だ。
発酵文化は酒だけではない。今野醸造では、無添加・長期熟成の仙台味噌「あなたのために」や、まろやかで香り豊かな「吟醸醤油」が並ぶ。さらに、ふりかける味噌パウダー「味噌ソルト」は、現代の食卓にも合う新しい発酵調味料として人気を集めている。
佐藤麹屋では、地元米を使った生麹が販売されており、家庭での味噌づくりや甘酒づくりに使われている。麹は発酵の起点であり、味噌・醤油・酒のすべてに欠かせない存在。加美町では、こうした麹文化が日常に根付き、季節の移ろいとともに味を楽しむ暮らしが今も続いている。
加美町の発酵文化は、素材・環境・人の技が揃ったからこそ育まれた。そして何より、地元の人々がその味を大切に守り続けてきたことが、文化としての発酵を支えているのだ。
実際に訪れて食べる・飲む
加美町中新田地区の今野醸造を訪れたのは、秋晴れの午後だった。木造の蔵の前には、手入れの行き届いた花壇と、昔ながらの帆前掛けをかけた看板が出迎えてくれる。店内に入ると、ふわりと味噌の香りが漂い、棚には「吟醸」「だし吟醸」「あなたのために」など、個性的な商品が並んでいた。
今野醸造は、明治36年創業。自社農場で育てた米と大豆を100%使用し、無添加・長期熟成の仙台味噌や醤油、塩麹などを丁寧に仕込む蔵元だ。発酵の力を最大限に活かすため、麹づくりから仕込み、熟成まで一貫して手作業にこだわっている。
私は「吟醸醤油」と「あなたのために(仙台味噌)」を購入。さらに、ふりかける味噌パウダー「味噌ソルト」も手に取った。帰宅後、味噌は味噌汁に、醤油は刺身に、味噌ソルトは焼き野菜に使ってみた。味噌は深いコクと香りがあり、出汁なしでも十分に旨味が出る。醤油は、まろやかで香り高く、魚の甘みを引き立てる。味噌ソルトは、塩の代わりに使うことで、料理に奥行きが生まれた。
今野醸造の味は、素材の力と職人の技、そして時間の積み重ねによって生まれる“生きた味”だった。微生物が働き、人の手が見守り、季節が味を育てる──その過程が、舌に、心に、静かに届いてくる。
所在地:〒981-4222 宮城県加美郡加美町下新田小原5
電話番号:0229634004
その後、町内の酒蔵にも足を運んだ。田中酒造店では、地元米を使った純米酒「天上夢幻」を購入。中勇酒造店では、すっきりとした口当たりの「真夏鶴」を試飲。山和酒造店では、香り高い「山和 純米吟醸」を手に取った。
田中酒造店
所在地:〒981-4251 宮城県加美郡加美町西町88−1
どの酒も、加美町の水と米、そして蔵人の技が詰まった味だった。特に「山和」は、若い杜氏が造る革新的な酒として注目されており、全国の酒通からも高い評価を受けている。発酵は、土地の記憶を味に変える。加美町の地酒は、まさにその証だった。
山和酒造店
所在地:〒981-4241 宮城県加美郡加美町南町109−1
参考
酒づくり - 中勇酒造店 宮城県加美町 伝統的な手づくり日本酒蔵
まとめ
加美町の発酵文化は、静かで力強い。今野醸造の味噌と醤油、佐藤麹屋の生麹、町内の酒蔵の地酒──それらは、微生物と人間の共生によって生まれる“生きた味”であり、土地の記憶を継承する文化でもある。
発酵は、保存技術であり、健康の源であり、文化の記憶でもある。微生物が働き、人が見守り、時間が味を育てる──その過程には、自然との対話がある。加美町の発酵食品は、食べる人の身体だけでなく、心にも静かに語りかけてくる。
なぜ加美町に発酵文化が根付いたのか──それは、素材・水・気候・人の技が揃っていたからだ。中新田地区に密集する酒蔵群、今野醸造の自社農場による原料づくり、佐藤麹屋の地元密着型の麹づくり──それぞれが、土地の力を活かしながら、発酵という営みを支えている。
そして何より、地元の人々が発酵食品を日常的に使い、季節の移ろいとともに味を楽しんできたことが、文化としての発酵を育ててきた。味噌汁の香り、酒の余韻、麹の甘み──それらは、加美町の風景とともに記憶に残る。
私はこの旅を通じて、発酵が持つ力を改めて実感した。それは、体を整える力であり、心を癒す力であり、土地と人をつなぐ力でもある。次は、麹づくりの現場にもっと深く入り込み、発酵の奥深さに触れてみたい。そしてまた、加美町の“生きた味”に出会いに行こうと思う。