【宮城県加美町】白い「雁月(がんづき)」をたずねるin門真菓子店・レビュー・雁月の種類
宮城県加美町。山と田畑に囲まれたこの町に、静かに佇む和菓子店がある。門真菓子店——創業百年を超える老舗で、地元の人々に愛され続けてきた店だ。私がこの店を訪れたのは、ある郷土菓子を求めてだった。
その名は「雁月(がんづき)」。宮城県北部を中心に親しまれてきた蒸し菓子で、黒糖の香りとふっくらとした食感が特徴だ。名前の由来には諸説あるが、旧暦の9月(雁が渡ってくる月)に作られることから「雁月」と呼ばれるようになったとも言われている。
この大崎耕土は渡り鳥の楽園でもある。隣町の大崎市の蕪栗沼や登米・栗原の伊豆沼・内沼は、日本最大級の雁の飛来地。秋になると、空を覆うような雁の集団飛行が見られる。その風景を模したような菓子が「雁月」なのだ。小豆や胡麻が雁の群れに見立てられ、絵画のような雅な演出が施されている。
私は以前、大崎市松山の松月堂で茶色系の蒸しパン状の「黒雁月(くろがんづき)」をいただいたことがある。その素朴な味わいが忘れられず、今度は加美町の門真菓子店で「白がんづき」を求めてみようと思った。黒と白、二つの雁月を味わいながら、土地と季節の記憶を辿る旅が始まった。
参考
農林水産省「がんづき|にっぽん伝統食図鑑 - 宮城県」
門真菓子店の「雁月」レビュー
加美町の中心部から少し離れた住宅街に、門真菓子店は静かに店を構えている。木造の店構えはどこか懐かしく、暖簾をくぐると、ガラスケースの中に「がん月」が並んでいた。黒糖の香りがふわりと漂い、思わず足を止める。
店主の門真さんは三代目。「がん月は、うちの看板です」と笑顔で語る。黒糖ではなく上白糖を使い、ういろうのようなもっちりとした食感に仕上げているという。蒸し加減には細心の注意を払っており、季節によって湿度が違うため、蒸し時間も微調整するとのこと。農林水産省のレシピページを見ると、ういろうの白雁月は、通常の雁月と比較して倍以上時間がかかるという。まさに職人の仕事だ。
私は白がんづきを数個購入し、駐車場に停めていた車の中でいただいた。しっとりとした生地に、上品な甘み。胡麻の香ばしさがアクセントになり、口の中でふわりと広がる。素朴なのに、どこか品がある——そんな味だった。
門真菓子店の雁月は、地元の人々が「これぞ本物」と口を揃える逸品。ネットやSNSの口コミ・レビューでも「キング・オブ・がんづき」と称されるほどの人気ぶりだ。揚げまんじゅうや「まんじゅうブッセ」など、他の和菓子も評判が高く、加美町を訪れるならぜひ立ち寄ってほしい店である。
門真菓子店
所在地:〒981-4401 宮城県加美郡加美町宮崎町54
電話番号:0229695151
雁月の種類と文化的背景
雁月は、宮城県や岩手県南部で親しまれてきた郷土菓子で、主に冠婚葬祭や地域の行事で供される蒸し菓子だ。農林水産省の郷土料理資料によれば、黒がんづきと白がんづきの二種類に大別される。
黒がんづきは黒糖を使った茶色系の蒸しパン状で、ふんわりとした食感が特徴。私がよく訪れる大崎市松山ではこのタイプが主流で、別記事でも紹介している。白がんづきはういろう状で、しっとり・ねっとりとした口当たりが魅力。門真菓子店ではこの白がんが主力商品で、胡桃・鶯豆・小豆・醤油など、種類も豊富だ。
雁月の意匠は、渡り鳥の群れを模したもの。小豆や胡麻が雁の群れに見立てられ、菓子の表面に散らされる。その意匠は、まるで絵画のような雅な演出。食べることが、風景を味わうことに変わる瞬間だった。
参考
農林水産省「がんづき 岩手県 | うちの郷土料理」
雁月と加美町・大崎耕土の渡り鳥の風景
雁月を味わった後、私は加美町の田畑を歩いた。秋の空には、雁の群れが列をなして飛んでいた。蕪栗沼や伊豆沼・内沼から飛来した雁たちが、大崎耕土を越えて加美町の空を舞う。その風景は、まるで絵巻物のようだった。
なぜ加美町や大崎市は文化的素養が高いのか。それは古代よりこの地は蝦夷と大和朝廷の闘争があり、近くに多賀城もあったことから都の文化が入っていた。隣町の色麻町の由来は兵庫県飾磨からの移住者が多かったことが由来と言われており、関西の文化が根強く入っている。
私は雁の飛行を眺めながら、白がんづきを口に運んだ。しっとりとした甘みが、秋の空気と溶け合う。土地の記憶と季節の気配が、菓子の中に宿っているようだった。
雁月は、ただの郷土菓子ではない。風景と文化、そして人の感性が織りなす、静かな芸術品なのだ。
まとめ
雁月——その名には、季節と風景、そして人の暮らしが刻まれていた。加美町の門真菓子店でいただいた白がんづきは、ういろうのようにしっとり・ねっとりとした食感で、黒糖系の黒がんづきとはまた違った魅力を持っていた。
私は以前、大崎市松山で黒がんづきをいただいたことがある。そちらは蒸しパン状でふんわりとした食感。どちらも素朴でありながら、土地の風景と結びついた味だった。別途記事でも紹介しているので、ぜひそちらもご覧いただきたい。
仙台は日本有数の駄菓子の町でもある。菓子文化が大崎や加美まで伝わっていることは驚きでもあり、誇りでもある。こうした文化を受け継ぎ、今も美しいと感じられる県北の人々の素養の高さに、私は静かな感動を覚えた。
雁月を食べることは、土地の記憶を味わうことでもある。秋の空に雁が舞い、菓子にその姿が宿る——そんな雅な時間を、私は加美町で過ごした。
