【イベントレポート】京都・聖光寺にて開催「京都ではじめての日本茶体験~煎茶観念仏~」― 大津絵と玉露がひらく、静けさと哲学の茶会

聖光寺にて茶会サロン

2025年、京都・河原町の聖光寺にて、日本茶を通じて文化と感性をひらくイベント「京都ではじめての日本茶体験~煎茶観念仏~」が開催されました。主催は、地域文化の再発見と体験の場づくりを行う「地域文化ラボ」。これまで個人宅や小規模な空間で数多くの日本茶イベントを行ってきた著者にとっても、お寺という場での開催は特別な試みでした。

当日は15名ほどの参加者が集い、SNSでのライブ配信も実施。オンライン視聴者を含め、多くの方にこの茶会に触れる機会となりました。京都・宇治の玉露、京焼の茶器、そして秋の京都を彩る栗菓子が用意され、五感を通じて日本文化の奥行きを体験する場がひらかれました。

「鬼の観念仏」― 茶席に込められた問い

今回のテーマは「鬼の観念仏」。茶席には、大津絵の中でも特に象徴的な「鬼の寒念仏」が結界として飾られました。僧侶の姿をした鬼が念仏を唱えるこの絵は、偽善や見かけ倒しを風刺し、「人の本質は外見では分からない」という教えを伝えるもの。江戸時代、文字を読めない庶民にも仏教の教えを伝えるために描かれたこの絵は、今もなお、私たちの価値観に静かに問いを投げかけます。

このテーマは、単なる装飾ではなく、茶席全体の空気を形づくる精神的な軸となっていました。参加者は、茶を味わいながら、絵に込められたメッセージに思いを馳せ、日常の価値観や人との関わり方を見つめ直す時間を過ごしました。

茶と文化が交差する、お寺という場

煎茶観念仏
煎茶観念仏

会場となった聖光寺は、京都・河原町の静かな一角に佇むお寺。木の香りが漂う本堂に足を踏み入れると、そこには日常とは異なる時間の流れがありました。畳の上に設えられた茶席には、京焼の茶器が並び、湯気の立ちのぼる玉露の香りが空間を満たします。

京焼は、京都で400年以上の歴史を持つ伝統工芸。繊細で上品な色合いと、茶道・煎茶道との深い関わりを持つ器は、茶の味わいを引き立てるだけでなく、視覚的にも豊かな体験をもたらします。参加者は、器の手触りや重みを確かめながら、茶と器、そして空間との調和を楽しんでいました。

また、供された和菓子は、京都の老舗「仙太郎」の栗菓子。秋の京都を象徴する味覚が、玉露のまろやかな旨味と絶妙に調和し、茶席に季節の彩りを添えていました。

東夷庵が語る、煎茶と観念の交差点

講師を務めたのは、地域文化ラボのディレクターであり、フリーランス茶人としても活動する東夷庵(とういあん)氏。江戸時代の禅僧・売茶翁(ばいさおう)に深く共鳴し、茶を通じて人と文化をつなぐ活動を続けています。

売茶翁は、18世紀の京都で市井の人々にお茶を振る舞いながら、禅や人生の在り方を説いた人物。東夷庵氏もまた、茶を通じて人と出会い、文化や哲学を分かち合うことを大切にしています。

この日も、参加者に玉露を丁寧に淹れながら、大津絵に込められた意味や、煎茶趣味の背景にある思想、日本茶がもたらす心の静けさについて語りました。形式にとらわれず、しかし一つひとつの所作に心を込めるその姿勢に、参加者は自然と背筋を伸ばし、茶の時間に身を委ねていました。

参加者の声に見る、文化の余韻

イベント後には、参加者から多くの感想が寄せられました。

「大津絵ってそんなにすごい絵なのかと驚いた」「煎茶道って哲学的で面白い」「日本茶がこんなに美味しいとは思わなかった」「また茶会やオンラインレッスンをやってほしい」など、日本茶やその背景にある文化への関心が高まったことがうかがえます。

特に印象的だったのは、「鬼の寒念仏」というテーマが、参加者の内面に静かに問いを投げかけていたこと。茶を通じて、ただ味わうだけでなく、自分自身の在り方や人との関係性を見つめ直す時間となったようです。

次回に向けて ― 風景のなかの茶を探して

地域文化ラボでは、次回の日本茶イベントを2026年初春に予定しています。テーマは現在構想中ですが、「風景の中にある茶の気配」や「日常のなかの非日常」といった、より自由で感覚的な切り口を探っています。

詳細は決まり次第、公式サイトやSNSにてお知らせいたします。今回のように、茶を通じて文化と出会いなおす場を、今後も丁寧にひらいていく予定です。

おわりに

「京都ではじめての日本茶体験~煎茶観念仏~」は、単なる茶会ではなく、日本文化の深層に触れる静かな旅のような時間でした。玉露の香り、大津絵のまなざし、京焼の器の手触り、そして講師の語り。すべてが重なり合い、参加者一人ひとりの中に、何かしらの余韻を残したのではないでしょうか。

地域文化ラボでは、これからも日本茶を通じて、土地の記憶や人の感性に触れる場をつくっていきます。日々の暮らしの中に、ほんの少しの静けさと豊かさを。そんな願いを込めて、次の一服を準備しています。

投稿者プロ フィール

東夷庵
東夷庵
地域伝統文化ディレクター
宮城県出身。京都にて老舗和菓子屋に勤める傍ら、茶道・華道の家元や伝統工芸の職人に師事。
地域観光や伝統文化のPR業務に従事。

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