【宮城県大崎市】鳴子こけし絵付け体験記in日本こけし館

「宮城観光」と聞いて、まず思い浮かぶのは仙台や松島かもしれない。でも、もっと奥へ、もっと深く。今回私が訪れたのは、宮城県大崎市鳴子温泉。ここは「鳴子こけし」のふるさとであり、湯治文化と伝統工芸が息づく、まさに“地域文化の宝庫”だ。近年「鳴子こけし」は国内はじめ海外でもブームになっていると聞く。東北各地にあるこけし資料館や展示館は訪問客が多くなっているという。

その中でも、鳴子こけしの魅力を体感できる場所が「日本こけし館」。今回は、地域文化ライターとして、そして一人の旅人として、こけし絵付け体験に挑戦してきた。

参考資料

鳴子温泉郷観光協会公式サイト「宮城県大崎市鳴子温泉

FNNネットワーク「「こけし」「木彫りのクマ」が海外で人気?大掃除で出た意外と売れる不用品…高値が付きそうな品を出張買取店に聞いた

総務省「鳴子こけしの伝統技術の習得およびSNSによる情報発信等を通じた鳴子こけしの知名度の向上と販路の拡大

鳴子温泉ってどんなところ?

鳴子温泉郷は、五つの温泉地からなる湯の里。その中心にある鳴子温泉は、源泉数が300以上、泉質も多彩で、温泉好きにはたまらない場所だ。駅前には硫黄の香りが漂い、湯けむりが立ち上る。昭和レトロな商店街、こけし工房、そして山々に囲まれた静かな空気。ここには、都市では味わえない“時間の流れ”がある。

鳴子こけしの歴史と特徴

鳴子こけしは、東北地方に11系統ある伝統こけしの中でも、最古の系統とされる。江戸時代後期、木地師たちが湯治客向けに作った玩具が始まりだ。首を回すと「キュッキュッ」と鳴る構造が特徴で、「鳴る子=鳴子こけし」という語源説もあるとか。

絵柄は、赤・黒・黄色を基調とした菊模様が中心。職人によって微妙に表情や筆致が異なり、見れば見るほど奥が深い。こけしは単なる土産物ではなく、土地の記憶と職人の魂が宿る“文化の器”なのだ。

日本こけし館で絵付け体験

日本こけし館は、鳴子温泉駅から車で約5分。館内には東北各地のこけし約5,000本が展示されており、鳴子系だけでなく津軽、土湯、弥治郎なども見比べられる。設立のきっかけとなったのが、詩人・童話作家であり、こけし研究家でもあった深沢要のコレクション。彼はこけしを「民衆の美」として捉え、全国を歩いて収集・記録を続けた人物だ。

深沢の情熱が形となり、こけし館は昭和32年に開館。展示室には彼の収集品のほか、高松宮宣仁親王や俳優・菅原文太の寄贈品も並び、こけしの歴史と美を一望できる。

館内で行われている絵付け体験は、白木のこけしに自分で顔や模様を描くというもの。筆と絵の具が用意され、職人さんが優しく教えてくれる。最終的にはロウで磨かれてピカピカになるので、お土産にぴったりだ。

「まずは顔から描いてみましょう。目と眉で表情が決まりますよ」と言われ、緊張しながら筆をとる。

描いてみると、思った以上に難しい。でも、少しずつ命が吹き込まれていく感覚が楽しい。胴体には菊模様を描いてみたが、職人のようにはいかない。でもそれがまたいい。自分だけのこけしができたという満足感は、何ものにも代えがたい。

東京から通う“こけし沼”の人と出会う

体験中、隣の席にいた女性と自然に会話が始まった。彼女は東京から来ていて、なんと月に一度は鳴子を訪れているという。「こけしにハマってしまって…」と笑う彼女の目は本気だった。

きっかけは、数年前に鳴子温泉にふらりと立ち寄ったこと。そのとき、こけし工人の実演を見て、手仕事の美しさに衝撃を受けたという。「あの一筆で命が宿る感じ。あれが忘れられなくて」と語る彼女は、今では自分でも絵付けを学び、SNSでこけしの魅力を発信しているそうだ。

「こけしって、見た目だけじゃなくて、作り手の人生がにじみ出るんですよ。だから、一本一本が違う。まるで人間みたい」と語る彼女の言葉に、私は深く頷いた。

鳴子こけしの凄さ──独自性と世界的評価【鳴子こけし体験】

鳴子こけしの最大の特徴は、頭部と胴体が別々に作られ、はめ込み式になっていること。首を回すと「キュッキュッ」と鳴る音がするのもこの構造によるものだ。肩が盛り上がり、中央にくびれ、裾に向かって広がる安定感のあるフォルム。胴には菊や楓などの写実的な模様が描かれ、顔は童のような優しい表情をしている。

この独自性が評価され、近年では「KOKESHI DOLL」として海外でも人気が高まっている。ヨーロッパの雑貨店ではマトリョーシカと並んで販売されることもあり、外国人観光客が鳴子こけしを「超COOL!」と絶賛する声も。
さらに、人気アパレルブランドBEAMSとのコラボや、青森の高校生が考案した「こけス(こけし×チェス)」など、進化系こけしも登場。伝統と革新が共存する鳴子こけしは、まさに“オンリーワン”の存在だ。

鳴子こけしが地域に与えてきたもの

鳴子こけしは、単なる工芸品ではない。地域のアイデンティティであり、観光資源であり、そして人と人をつなぐ“文化の架け橋”だ。

例えば、毎年開催される「全国こけし祭り」では、全国のこけし工人が集まり、鳴子の町がこけし一色に染まる。地元の子どもたちも参加し、「張りぼてこけし」のパレードでは、人が入れるサイズの巨大こけしが街を練り歩く。これがまた、なんとも言えない愛らしさで、観光客にも大人気だ。

また、地域おこし協力隊として鳴子に移住し、こけし職人を目指す若者も増えている。SNSでの発信やイベント参加を通じて、こけしの魅力を広め、販路拡大にも貢献している。

周辺の観光スポットも魅力的【鳴子温泉観光】

絵付け体験の後は、鳴子温泉街をぶらり。おすすめは以下のスポット。

  • 鳴子峡:東北屈指の紅葉名所。秋には渓谷が燃えるような色彩に包まれる。
  • 潟沼:季節によって水の色が変わる神秘的な火山湖。
  • 鬼首かんけつ泉:10〜15分間隔で温泉が噴き上がる迫力満点の間欠泉。
  • 地獄谷遊歩道:湯気が立ち上る自然散策路。温泉卵作りも楽しめる。
  • 鳴子温泉神社:こけしの碑が建つ静かな社。縁結びや安産のご利益も。
  • 餅処 深瀬:名物「栗だんご」は絶品。地元民にも愛される老舗。

人に与える“癒し”と“つながり”

こけしは、見た人の心を和ませる力がある。その素朴な表情、手仕事の温もり、そして一本一本に込められた物語。実際、絵付け体験を通じて「自分のこけしができた」という達成感を味わう人は多い。

また、こけしを通じて人と人がつながる。私が出会った東京の女性もそうだし、SNSでこけしを知って鳴子を訪れる若者も増えている。こけしは、地域文化を超えて、人の心に寄り添う存在なのだ。


よくある質問(鳴子こけし絵付け体験)

Q. 体験料金はいくらですか?

  1. 料金は税込1,500円(2025年時点)です。体験料・材料費・指導料すべて込みで、絵付けしたこけしはそのまま持ち帰ることができます。

Q. 所要時間はどれくらい?

  1. 所要時間は約30分〜90分。描く内容や人数によって多少前後しますが、初心者でもゆっくり楽しめる時間設定です。

Q. 絵付けしたこけしはその日に持ち帰れますか?

  1. はい、体験後すぐにお持ち帰りいただけます。職人さんがロウ仕上げをしてくれるので、ツヤのある状態で持ち帰れます。

Q. アクセス方法は?

  1. 鳴子温泉駅から徒歩約5分。車の場合は東北自動車道・古川ICから約40分。無料駐車場もあります。

Q. 何人まで体験できますか?

  1. 1人から最大30人まで対応可能です。団体の場合は事前予約が必要です。別プランでは100名規模の受け入れも可能な場合があります。

Q. 体験はどこで行われますか?

  1. 日本こけし館内。ほかにも「こけしの岡仁」や「鳴子総合支所」などの公共施設でも行われています。寺子屋ホールなどを使うこともあります。詳細は参考資料をご覧ください。

Q. 誰が教えてくれるの?

  1. 鳴子こけしの工人(職人)が直接指導してくれます。巡回しながらアドバイスをくれるので、初心者でも安心です。

参考
日本こけし館「絵 付 け 体 験

一般社団法人みやぎ大崎観光公社|公式サイト「鳴子こけし絵付け体験


こけしは“手の中の物語”

鳴子こけしの絵付け体験は、単なる観光ではなかった。筆をとることで、職人の技と向き合い、土地の文化に触れ、自分の中に新しい記憶が刻まれた。こけしは、見て、触れて、作ってこそ、その魅力がわかる。

鳴子は、温泉とこけしの町。でもそれだけじゃない。人の手が生み出すものの尊さ、土地に根ざした文化の奥深さを教えてくれる場所だ。次に訪れるときは、もっとこけしの歴史を掘り下げてみたい。そしてまた、自分だけのこけしを描いてみようと思う。

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