【宮城県大崎市】420年続く「古川八百屋市」をたずねる|由来・開催日・売っているもの・熊野神社との記憶など解説

私は地域文化を記録する仕事をしている。制度や建築では見えてこない、暮らしの中に息づく風習や味──それらを拾い上げ、現地の空気を吸い込みながら言葉にする。それが私の旅のかたちだ。

その延長として、宮城の地域文化をお茶とともに味わう「煎茶サロン」も開いている。季節の和菓子や土地の話題を囲みながら、静かに茶を点てる時間は、記録者としての私にとっても、語り手としての私にとっても、大切なひとときだ。

今回訪れたのは、宮城県大崎市古川。目的は、400年以上続く青空市「古川八百屋市」に触れることだった。私が幼い頃、祖母に連れられてよく通った市でもある。当時は熊野神社の境内で開かれていて、露店の並びと野菜の香り、店主とのやりとりが記憶に残っている。

現在では「道の駅おおさき」に場所を移し、春の訪れとともに市が始まる。朝6時、まだ肌寒い空気の中、威勢のいい声とともに並ぶ野菜や花々。買い物というより、季節の風物詩としての市の空気がそこにはある。

私はこの市に惹かれた。なぜ古川で、なぜこの形で、なぜ今も続いているのか──その問いを胸に、古川の町を歩き、八百屋市の物語を辿った。

参考

大崎市「古川八百屋市

宮城県「古川八百屋市 '25.4.7(月)~6.27(金)までの3と7の付く日

古川八百屋市とは?|読み方・開催日・場所・売っているもの

古川八百屋市──読み方は「ふるかわやおやまち」。宮城県大崎市古川で、春の訪れとともに開催される青空市である。江戸時代から続くこの市は、地域の人々にとって“買い物”以上の意味を持つ、暮らしの風景そのものだ。

開催期間は毎年4月上旬から6月下旬まで。令和7年は4月7日から6月27日まで、3と7のつく日(ただし30日・31日を除く)に開催される。時間は朝6時から9時まで。場所は「道の駅おおさき」(大崎市古川千手寺町二丁目5-50)で、アクセスも良く、駐車場も完備されている。

売られている品は、採れたての野菜、春の花々、漬物、山菜、和菓子、種苗、園芸用品、しそ巻きといった加工品、竹細工など多岐にわたる。市価より1〜2割ほど安く販売されることもあり、地元の人々だけでなく観光客にも人気が高い。

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私は地域文化を記録する仕事をしている。制度や建築では見えてこない、暮らしの中に息づく味や風習──それらを拾い上げ、現地の空気を吸い込みながら言葉にする。それが私…

店主との会話を楽しみながら買い物をするのが、この市の醍醐味だ。「しばらくだね」と声をかけ合い、笑顔が交わされる。商品を買うだけでなく、人と人との再会を楽しむ場でもある。

春の空気とともに始まる古川八百屋市は、地域の暮らしと記憶が交差する“語りの市”である。

参考

KHB東日本放送「春の訪れを告げる宮城・大崎市の古川八百屋市始まる 400年

日テレnewsNNN「江戸時代に始まった青空市『古川八百屋市』開幕、野菜や花

由来と歴史|伊達政宗・鈴木和泉守・御日市のはじまり

古川八百屋市の起源は、戦国時代末期にまでさかのぼる。1591年、伊達政宗が古川城を家臣・鈴木和泉守元信に任せたことから、古川の町割が始まった。戦乱で疲弊した住民に安住の地を与えるため、町を整備し、民心の安定を図るために市を起こしたのが始まりである。

1604年、鈴木和泉守は稲葉村三日町と大柿村七日町で、それぞれ「3と7のつく日」に御日市(おんにちいち)を開くことを許可した。これが現在の古川八百屋市の原型となる。その後、十日町でも市が開かれるようになり、古川は交易の中心地として発展していった。

現在でも、三日町・七日町・十日町という地名が市内に残っており、当時の市の記憶を今に伝えている。明治期には、街路取締規則により国道の使用が難しくなり、裏町(現在の浦町)へと移転。さらに時代が進み、現在では「道の駅おおさき」に場所を移して開催されている。

古川は、仙台・秋田・山形・県北を結ぶ街道の交差点に位置しており、宿場町としても栄えた。市は物資と人の交流の場であり、地域の経済と文化を支える重要な役割を果たしてきた。

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古川八百屋市は、単なる朝市ではない。400年以上にわたり、土地の人々の暮らしと記憶をつなぎ続けてきた“語りの市”なのだ。

なぜ古川で八百屋市が続いている?

古川八百屋市が400年以上続いてきた背景には、古川という土地の地理的な特性がある。古川は、仙台・秋田・山形・県北を結ぶ街道が交差する交通の要衝であり、宿場町としても栄えた。江戸時代には、物資の集積地としての役割を果たし、旅人や商人が行き交う町だった。現在も宮城県を縦断する国道4号線、鳴子温泉を経由して秋田湯沢市・山形最上町と古川をつなぐ県道108号線が古川に活気をもたらしている。

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古川駅前にある三日町・七日町・十日町という市の名残を持つ地名が今も残るように、古川は市の文化とともに発展してきた。市は単なる物販の場ではなく、人と人が出会い、情報が交わされる場でもあった。野菜や漬物だけでなく、種苗や竹細工、和菓子などが並ぶのは、農業・手仕事・食文化が交差する土地だからこそだ。

現代においても、古川は大崎市の中心地として、県北の玄関口のような存在である。道の駅おおさきに市が移った今も、県内外から人が集まり、春の風物詩としての役割を果たしている。

古川で市が続いてきたのは、地理的な利便性だけではない。土地の人々が市を必要とし、育ててきたからこそ、400年という時間が積み重なったのだ。

熊野神社との記憶

私が古川八百屋市に初めて触れたのは、幼少期のことだった。祖父母に手を引かれ、道の駅おおさき近くにある熊野神社の境内へ向かった朝。まだ眠気の残る空気の中、境内には露店が並び、野菜の香りと人々の声が交差していた。

神社の境内には季節の花々、山菜、漬物、そしてふのりの束が並んでいた。祖母は店主と顔なじみで、「しばらくだね」と声をかけ合いながら買い物をしていた。私はそのやりとりを聞きながら、祖母の手の温もりと、しその香りを覚えている。

当時の市は、買い物以上の意味を持っていた。人と人が再会し、季節の移ろいを感じる場だった。熊野神社という土地の記憶とともに、市の空気は私の中に刻まれている。

現在では道の駅おおさきに場所を移したが、あの空気は変わらない。露店の並び、店主との会話、野菜の香り──それらは、土地の記憶として今も息づいている。

市は、物を買う場ではなく、記憶を交わす場なのだ。熊野神社での市の記憶は、私にとって地域文化の原点でもある。

熊野神社

〒989-6172 宮城県大崎市古川前田町3−25

2025年春の古川八百屋市を歩く

2025年4月、私は久しぶりに古川八百屋市を訪れた。道の駅おおさきの駐車場に車を停めたのは、朝6時前。まだ肌寒い空気の中、すでに露店の準備が始まっていた。店主の威勢のいい声が響き、春の花々と野菜が並び始める。

私はまず、祖母がよく買っていたふのりと漬物を手に取った。隣の店では、ビオラやマーガレットが色鮮やかに並び、春の訪れを告げていた。山菜の束、和菓子、種苗──どれも地元の人々が丹精込めて育てた品々だ。

買い物客の多くは顔なじみのようで、「しばらくだね」「今年もよろしく」と声をかけ合っていた。私は店主に「昔は熊野神社でやってましたよね」と話しかけると、「そうそう、懐かしいね。」と笑顔が返ってきた。

市は、品物を買うだけでなく、人と人が再会し、季節を感じる場だった。私は煎茶を淹れ、買った漬物とふのりを味わいながら、幼い頃の記憶と今の空気が重なるのを感じた。

古川八百屋市は、春の風物詩であり、地域の記憶をつなぐ“語りの市”だった。400年続く理由は、そこに人の営みと温もりがあるからだ。

道の駅 おおさき

所在地:〒989-6174 宮城県大崎市古川千手寺町2丁目5−50

電話番号:0229257381

まとめ

古川八百屋市は、宮城県大崎市古川で400年以上続く青空市である。春の訪れとともに始まるこの市は、単なる物販の場ではなく、地域の暮らしと記憶が交差する“語りの市”だ。

その起源は1604年、古川城主・鈴木和泉守元信が三日町・七日町で「御日市」を開いたことに始まる。伊達政宗の命を受けて町割を行い、戦乱で疲弊した民に安住の地を与えるために市を起こした。以後、十日町にも広がり、古川は交易の中心地として発展していった。

現在でも三日町・七日町・十日町という地名が残り、道の駅おおさきに場所を移した今も、3と7のつく日に市が開かれる。朝6時から9時まで、野菜、漬物、花、山菜、和菓子、種苗などが並び、地元の人々が店主との会話を楽しみながら買い物をする姿が見られる。道の駅おおさきの近くにはパパ好みの松倉や歌枕の緒絶橋、市役所や商店街など、古川の中心地と言ってよいぐらいの好立地だ。

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私は幼少期、熊野神社の境内で開かれていた頃の市に祖母と通った記憶がある。境内に並ぶ露店、しその香り、ふのりの束、店主との「しばらくだね」というやりとり──それらは今も私の中に残っている。

古川は、仙台・秋田・山形・県北を結ぶ街道の交差点に位置し、宿場町として栄えた。市は物資と人の交流の場であり、地域の経済と文化を支える重要な役割を果たしてきた。

2025年の春、私は再び古川八百屋市を訪れた。道の駅の朝、並ぶ品々と交わされる笑顔に、幼い頃の記憶と今の空気が重なった。市は、土地の人々が育ててきた文化そのものだった。

古川八百屋市は、400年の時間を超えて、今もなお暮らしの中に息づいている。春の風物詩として、そして地域の記憶をつなぐ“語りの市”として、これからも続いていくだろう。

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