【宮城県大崎市】古川銘菓「パパ好み」由来や具材をたずねる|販売店・歌詞まで徹底解説in松倉本店
私は地域文化を記録する仕事をしている。制度や建築では見えてこない、暮らしの中に息づく味や風習──それらを拾い上げ、現地の空気を吸い込みながら言葉にする。それが私の旅のかたちだ。
その延長として、宮城の地域文化をお茶とともに味わう「煎茶サロン」も開いている。季節の和菓子や土地の話題を囲みながら、静かに茶を点てる時間は、記録者としての私にとっても、語り手としての私にとっても、大切なひとときだ。
今回訪れたのは、宮城県大崎市古川。目的は、地元で長く親しまれてきた宮城銘菓「パパ好み」に触れることだった。株式会社松倉が製造・販売するこのミックスあられは、昭和35年の発売以来、60年以上にわたって変わらぬ製法で作られている。その姿勢は、地元の人々の声に耳を傾け続けてきた“顧客ファースト”の精神そのものだった。
パパ好みは、10種類のあられと煎餅に、ピーナッツ・エビ・小魚(現在は片口いわし)を混ぜた菓子である。その名の通り、ビールのおつまみにも、お茶うけにも、子供のおやつにもなる万能な一品。包装には、豆を口に放り込むパパのイラストが描かれ、どこか懐かしい昭和の空気が漂っている。
私はこの菓子に惹かれた。なぜこの形なのか。なぜこの味なのか。なぜこの土地で生まれ、今も続いているのか──その問いを胸に、私は古川の町を歩き、松倉本店を訪ね、パパ好みの物語を辿った。
パパ好みとは?
パパ好み──読み方は「パパごのみ」。宮城県大崎市古川に本社を構える株式会社松倉が製造する、ミックスあられの草分け的存在である。米どころ古川の風土を活かし、もち米とうるち米を使った10種類のあられ・煎餅に、ピーナッツ・小エビ・小魚(現在は片口いわし)を加えた、香ばしくも懐かしい味わいの菓子だ。
具材は、形も味も異なる個性派ぞろい。サクラの花形をした「さくら」や、刻み海苔入りの「磯さくら」、挽きゴマを練り込んだ「胡麻丹」「胡麻小丹」、青海苔入りの「海苔丹」、エビ粉入りの「エビあられ」、唐辛子と海苔を練り込んだ「みやこあられ」、海苔を巻いた「海苔巻きあられ」、唐辛子入りの「ミニ小丸」など、見た目も味もバラエティ豊かだ。
これらのあられ・煎餅に、塩茹でピーナッツ、炒ったエビ、甘く味付けされた小魚が加わることで、甘味・塩味・旨味・辛味が一袋に凝縮される。特選パパ好みには、エビと魚が増量され、海苔巻きあられやカレイが追加されるなど、より贅沢な構成となっている。
パパ好みは、油を使わず丹念に焼き上げることで、素材の味を引き出している。保存料不使用で、賞味期限は約5ヶ月。小袋入りで持ち運びやすく、ギフトにも向いている。昭和の空気を残すパッケージと、世代を超えて愛される味──それが、パパ好みの魅力である。
参考
ホーム - ママも喜ぶ「パパ好み」の松倉 古川名物 宮城県大崎市
パパ好みの由来と歴史
パパ好みの由来は、昭和29年に遡る。創業者・松倉昭氏が、夏場に品薄になるピーナッツの代替として、あられや小魚を混ぜて販売したのが始まりだったという。昭和35年には「パパ好み」の商品名で正式に製造を開始。以来、松倉の看板商品として、古川の人々に育てられてきた。
商品名の「パパ」は、戦後間もない時代にあえて使われた言葉だった。当時は英語の使用が控えられていたが、「新しい時代の菓子」としてのメッセージを込めて命名されたという。ビールのおつまみにもなる味わいから、「ママも喜ぶパパ好み」というキャッチコピーが生まれ、昭和44年にはCMソングも制作された。
その歌は、文月えがく氏作詞、狛林正一氏作曲、天地総子氏の歌声とデューク・エイセス氏のコーラスで構成され、軽快なメロディーと親しみやすい歌詞で人気を集めた。現在も公式YouTubeで視聴でき、袋裏には歌詞と譜面が印刷されている。
また、パパ好み誕生の裏には、地元の子供たちのいたずらが関係しているという逸話も残る。量り売り用の木箱をひっくり返した子供たちのいたずら的な行動が、具材を混ぜて販売するきっかけとなり、それが消費者に好評だったことから、現在のスタイルが定着したという説がある。このエピソードは市内に住む複数の住民の証言によって裏付けられているという。
パパ好みは、古川の人々の声と遊び心が生んだ“混ぜる文化”の象徴である。松倉はその精神を守りながら、今日も丹念に焼き上げた一粒一粒を届けている。
CMソングと歌詞「ママも喜ぶパパ好み」
パパ好みの知名度を一気に押し上げたのが、1969年に放送開始されたCMソング『パパ好みの歌』だったという。作詞は文月えがく、作曲は狛林正一氏。リードボーカルには天地総子氏、バックコーラスにはデューク・エイセス氏が起用され、軽快なリズムと親しみやすい歌詞が世代を超えて愛されたのだろう。
「ママも喜ぶパパ好み」というフレーズは、夫の晩酌に添えれば妻も楽ができる──そんな時代の空気を映した発想から生まれたらしい。昭和の家庭における“お父さんの楽しみ”を象徴するような響きがあり、今もなおパッケージにその言葉が刻まれている。
この歌は、当時ソノシートとして古川市内で無料配布され、2007年にはオリジナルマスターテープが発見されてCD化もされた。現在は松倉の公式YouTubeチャンネルで視聴可能で、2021年には創業70周年を記念して、仙台貨物の大崎市古川出身のイガグリ千葉氏によるカバーも制作された。MVには大崎市の観光地やご当地キャラクターも登場し、地元愛に満ちた映像作品となっている。私も大好きなMVなのでぜひ一度見てほしい。
歌詞と譜面は、現行の「ファミリーパック」の袋裏にも掲載されており、食べながら口ずさむ人も少なくない。パパ好みは、味だけでなく音楽でも記憶に残る、大崎市古川の稀有な銘菓なのだ。
どこで買える?仙台駅・古川・東京・通販は?
パパ好みは、宮城県内を中心に幅広く流通している。仙台駅では、新幹線南改札内のNewDaysやNewDaysミニ仙台34号店で取り扱いがあり、旅の途中でも手軽に購入できる。私は新幹線に乗る前に立ち寄ったが、レジ横に積まれたパパ好みを手に取る人が次々と現れ、その人気ぶりを実感した。
古川では、松倉の直営本店が中心的な販売拠点だ。道の駅おおさきから徒歩3分の場所にあり、全商品が揃う。駐車場も完備されており、地元の人々が日常的に訪れる姿が印象的だった。
東京では、池袋の「宮城ふるさとプラザ(宮城県アンテナショップ)」で購入可能。また、ヨークベニマルなど一部のスーパーでも取り扱いがあり、季節限定で中元・歳暮の時期に見かけることもある。
さらに、松倉の公式オンラインショップや、みやぎ物産館の通販サイト、楽天市場などでも購入できる。遠方に住む人や贈答用にまとめ買いしたい人にとっては、ありがたい選択肢だ。
参考
パパ好み(8袋)【松倉】 | 宮城県物産振興協会オンラインショップ
値段とギフト・贈答
パパ好みは、日常のおやつとしても、贈答品としても重宝されている。価格帯は手頃で、32g×8袋入りの定番パックが1,274円(税込)、ファミリーパックは1,123円(税込)と、気軽に手に取れる価格設定だ。
ギフト用には、季節限定の「帰省セット」や「お盆限定セット」なども用意されており、女子ごのみやずんだ煎餅、ささぽんなどの人気商品と組み合わせた詰め合わせも人気が高い。包装紙には、豆を口に放り込むパパのイラストが描かれ、レトロで温かみのあるデザインが贈り物としての魅力を高めている。
ただし、公式通販では熨斗や日時指定には対応していないため、贈答用に使う場合は店頭購入か、事前の確認が必要だ。とはいえ、パパ好みはその名の通り、家族みんなで楽しめる味。父の日や敬老の日、ちょっとした手土産にもぴったりな“語りの菓子”である。
松倉本店を訪ねる
大崎市古川前田町にある松倉本店は、道の駅おおさきから徒歩3分。店舗前に2台、裏に9台の駐車スペースがあり、地元の人々が日常的に訪れる姿が印象的だった。昔は県道108号線沿いにスポーツ用品店と共に並ぶ老舗の建物という印象だったが、コロナ禍以降に建て替えを行ったらしく、新しく綺麗な建物になっていた。店内には、パパ好みをはじめ、女子ごのみ、ささぽん、ずんだ煎餅など、松倉の全商品が並ぶ。
特に目を引いたのは、地元産の米「ささ結」を使った米菓や、地元企業とのコラボ商品。地域の酒蔵の酒米を使った限定品や、地元農家と連携した素材開発など、地元色を前面に出した商品展開がなされている。
店員さんに話を聞くと、「パパ好みは古川の人に育ててもらった菓子です」と語ってくれた。震災やコロナ禍を経ても、地元の人々が支えてくれたことへの感謝が、店の空気からも伝わってくる。
昭和の趣を残すラインナップと、温かい接客。松倉本店は、単なる販売所ではなく、大崎市古川が育てたパパ好みの物語を体感できる場所だった。
所在地:〒989-6172 宮城県大崎市古川前田町4−6
電話番号:0229220259
実食レビュー
帰宅後、私はファミリーパックを開封した。袋を開けた瞬間、香ばしい醤油と海の香りがふわりと立ち上がる。まず手に取ったのは、花形の「さくら」。軽やかな食感とやさしい塩味が広がる。続いて「みやこあられ」は、唐辛子のピリッとした刺激がアクセントになっていた。
ピーナッツは塩茹でされており、あられとの相性が抜群。炒ったエビと片口いわしは、甘じょっぱく味付けされていて、噛むほどに旨味がにじみ出る。どの具材も主張しすぎず、全体として絶妙なバランスを保っている。
お茶うけにも、ビールのお供にも、子供のおやつにもなる──それがパパ好みのすごさだと実感した。食べ進めるうちに、まるで古川の町を歩いているような気持ちになった。あられ一粒一粒に、土地の記憶と人の手の温もりが宿っている。
パパ好みは、ただのミックスあられではない。それは、古川の風土と人情が焼き上げた“語りの菓子”だった。
まとめ
パパ好みは、ただのミックスあられではない。それは、宮城県大崎市古川の風土と人情、そして遊び心が育てた“語りの菓子”である。昭和の子供たちのいたずらから生まれた混ぜる発想、戦後の時代感覚を映した「パパ」という言葉の選択、そして「ママも喜ぶ」という家庭の風景──そのすべてが、この一袋に詰まっている。
株式会社松倉は、創業以来70年以上にわたり、地元の声に耳を傾けながら商品づくりを続けてきた。油を使わず丹念に焼き上げる製法、地元米「ささ結」の使用、地元企業とのコラボ──その姿勢は、地域とともに歩む菓子屋の誇りである。
私は古川の町を歩き、松倉本店を訪ね、パパ好みを手に取った。その味は、香ばしく、やさしく、どこか懐かしい。食べ進めるうちに、昭和の家庭の風景や、古川の町の空気が心に広がっていった。
パパ好みは、贈っても喜ばれ、食べても語りたくなる菓子だ。仙台駅や東京・池袋でも購入できるが、やはり古川で手に取ると、その空気感が違う。地元の人に育てられた味──それが、パパ好みの本質なのだ。
もしこの菓子に惹かれたなら、ぜひ他の宮城銘菓にも触れてみてほしい。支倉焼、松島こうれん、鳴子の栗団子──それぞれが土地の記憶を語る“語りの菓子”である。味を通して土地を旅すること。それは、文化を噛みしめること。そして、地元への感謝を形にすることなのだ。
