【宮城県仙台市】「作並こけし」の読み方や特徴、由来をたずねる|最古のこけし発祥地

仙台市の西、山形との県境に近い作並温泉。湯煙の立ちのぼるこの静かな湯治場に、私はこけしを訪ねて向かった。目的は「作並こけし」──東北の伝統こけし11系統のひとつであり、宮城伝統こけし「鳴子こけし」や「弥次郎こけし」、「遠刈田こけし」の中でも最も素朴な表情を持つとされる系統だ。

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【宮城県白石市】「弥次郎こけし」の読み方や由来、弥次郎こけし村や全日本こけしコンクールをたずねる

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【宮城県大崎市】こけし発祥地「鳴子こけし」の特徴や由来は?作家一覧や絵付け体験、こけし祭りを解説

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作並こけしは、江戸時代末期に南條徳右衛門が作り始めたと伝えられている。湯治に訪れた農民が、子どもへの土産として買い求めたのが始まりで、現在では「こけし発祥の地」とも言われている。実際、残る文献からも、最初のこけし工人が作並温泉に住んでいた可能性が高いとされている。

私は平賀こけし店を訪ねた。八代目工人・平賀輝幸さんが営むこの店は、代々こけしを作り続けてきた家系であり、店内には台付きこけしや祝いこけしなど、用途に応じた多彩な作品が並んでいた。工房では、木地を削る音と染料の香りが漂い、こけしが“暮らしの造形”であることを実感した。

作並こけしは、派手さのない静かな美しさを持っている。菊模様とロクロ線、そしてやさしい顔立ち──それらは、山間の湯治場で育まれた人々の心を映しているようだった。

私はその空気に触れたくて、作並の湯に浸かり、こけしの顔を見つめた。

参考

宮城県・宮城伝統こけし |東北の伝統的工芸品ホームページ

伝統こけし 作並系伝承 平賀こけし店 宮城県仙台市作並

所在地:〒989-3431 宮城県仙台市青葉区

作並こけしとは?由来・歴史・特徴

作並こけし──宮城県仙台市の作並温泉で生まれた伝統こけしであり、国の伝統的工芸品「宮城伝統こけし」のひとつとして昭和56年に指定された。鳴子、遠刈田、弥治郎、肘折と並び、宮城県内で5系統が存在するが、作並こけしはその中でも最も素朴な表情を持つとされている。

その由来は、江戸時代末期の文化・文政期(1804〜1830)に遡る。木地師と呼ばれる職人が、椀や盆などの日用品を作る技術を応用し、湯治に訪れた農民が子どもへの土産として持ち帰るためにこけしを作ったのが始まりとされる。文献によれば、最初のこけし工人は作並温泉に住んでいたとされ、作並は“こけし発祥の地”とも言われている。

作並こけしの特徴は、細身の形状とやさしい顔立ち。頭部は「福助型」「瓜実型」「丸型」などがあり、胴部は「裾締め直胴」や「下くびれ胴」など、なで肩の柔らかなラインが特徴的だ。描彩には菊模様やろくろ線が用いられ、派手さはなく、静かな品格が漂う。

材料には、東北地方に自生するミズキやイタヤカエデが使われる。乾燥には半年から1年をかけ、木肌の白さときめ細かさを活かして仕上げられる。最近では桜や椿、槐(えんじゅ)なども使われることがある。

作並こけしは、湯治文化とともに育まれた“生活の造形”だ。その顔に描かれるのは、工人の記憶と土地の空気。私はその表情に、どこか懐かしい気配を感じた。

参考

みやぎ蔵王こけし館「宮城伝統こけし|世界一の展示数

作並こけしの魅力

作並こけしの魅力は、派手さのない静かな造形美にある。頭部は福助型や丸型、胴は裾締め直胴や下くびれ胴──どれも柔らかなラインを持ち、山間の湯治場で育まれた人々の心を映しているようだ。

描彩には菊模様とロクロ線が使われる。菊は単純な花の形だが、筆の運びによって表情が変わる。ロクロ線は、木の回転に合わせて描かれるリズムのようなもの。私は工人の手元を見ながら、その線に“時間”が刻まれているように感じた。

作並こけしは、見た目の華やかさよりも、手にしたときの温もりが印象に残る。木肌の白さ、磨かれた艶、描かれた顔──それらが手のひらに伝わってくる。こけしは、飾るものではなく、暮らしの中に置いておきたくなる存在だ。

季節の風景とともにあるこけしの存在感も魅力のひとつ。春の芽吹き、夏の緑、秋の紅葉、冬の雪──作並温泉の四季を見守るように、こけしは静かに佇んでいる。

平賀こけし店を訪ねる

作並温泉街の一角、国道48号線から少し入った坂の途中に、平賀こけし店はある。木の看板とこけしの暖簾が目印で、店内に入ると、大小さまざまなこけしが並んでいた。私は八代目工人・平賀輝幸さんに話を伺った。

平賀家は、初代・南條徳右衛門から数えて八代目。代々こけしを作り続けてきた家系であり、店内には台付きこけしや祝いこけし、季節のこけしなどが並ぶ。結婚祝いや誕生祝い、新築祝いなど、用途に応じたこけしが揃っており、こけしが“贈り物”としての文化を持っていることを実感した。

工房では、木地を削る音が響いていた。丸太から玉切りし、ろくろで回しながら頭部と胴部を削る。サンドペーパーとワラで磨き、描彩には墨と染料を使う。菊模様やろくろ線を描き、顔を描き、最後にロウを引いて艶を出す──そのすべてが、工人の手仕事であり、記憶の継承でもある。

平賀さんは言った。「こけしは、形として残る贈り物です。だからこそ、心を込めて作る必要があるんです」。その言葉に、私はこけしが“語りかけてくる存在”であることをあらためて感じた。

作並こけしは、静かな湯治場の空気と、工人の手のぬくもりが宿る造形だ。私はその空気に触れながら、こけしの顔を見つめていた。

参考

せんだい旅日和「平賀こけし店 | 【公式】仙台観光情報サイト

所在地:〒989-3431 宮城県仙台市青葉区作並元木13

電話番号:0223952523

作並こけしの絵付け体験

作並こけしの魅力は、見るだけでなく“描く”ことでさらに深まる。私は平賀こけし店で作並こけし絵付け体験を申し込んだ。事前予約をして、6寸(約18cm)の白木こけしに染料と筆で絵を描く──それは、こけしに“自分の気持ち”を映す時間だった。

体験は約1時間。赤、黄、紫、墨の染料が用意され、工人が筆の使い方や描彩のコツを丁寧に教えてくれる。顔を描くとき、私は思わず手が止まった。どんな表情にしようか──笑っているのか、少し伏し目がちか。筆を動かすうちに、こけしの顔に自分の感情が映っていくような感覚があった。

胴模様には菊を描いた。単純な花の形なのに、筆の運びによって表情が変わる。ロクロ線を描くときは、木の回転に合わせて筆を添える。工人の手元を見ながら、私は“描くこと”が語る行為であることを実感した。

完成したこけしは、どこか自分に似ていた。顔の角度、目の位置、口元の柔らかさ──それらが、私の気持ちを映していた。こけしは、ただの民芸品ではない。描いた人の記憶と感情が宿る“肖像”なのだ。

【宮城県仙台市】伝統工芸「作並こけし」絵付け体験記in作並温泉

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作並こけし通販と購入方法

作並こけしに出会ったあと、「家に迎えたい」と思う人は多いだろう。私もそのひとりだった。こけしは、工人の手仕事と土地の空気が宿る“語りの造形”だ。だからこそ、購入の仕方にも少しだけ心を配りたい。

もっとも確実なのは「平賀こけし店」での購入。店内には台付きこけし、祝いこけし、季節のこけしなどが並び、工人の手仕事を直接見ることができる。冠婚葬祭や誕生祝い、新築祝いなど、用途に応じたこけしも揃っている。

通販も可能だ。電話やFAXで注文を受け付けており、サイズ・色・数量・メッセージなどを指定してオーダーする。宅急便での配送も対応しており、レターパックでの発送も可能。商品によっては制作に時間がかかるため、早めの注文がおすすめだ。

参考

伝統こけし 作並系伝承 平賀こけし店 宮城県仙台市作並

誕生祝いこけしは、赤ちゃんの身長と同じ高さで作るというユニークなもの。結婚祝いこけしは、黒(新郎)と赤(新婦)の一対で、背中に名前や日付を入れることもできる。こけしは、形として残る贈り物──だからこそ、心を込めて選びたい。

私は店で、あるこけしを手に取った。顔立ちに惹かれ、工人の話を聞きながら購入を決めた。そのこけしは、今も私の部屋に静かに佇んでいる。

こけしを買うということは、誰かの手仕事と記憶を迎え入れること。だからこそ、どこで、誰から買うか──その選択もまた、旅の一部なのだ。

まとめ

作並こけしを訪ねた旅は、私にとって“静かな時間”を探す旅だった。こけしは、工人の手仕事と土地の空気が宿る、文化のかたちであり、記憶の器だ。

作並温泉の湯に浸かりながら、私はこけしの顔を思い出していた。やさしい目元、菊模様の胴、ロクロ線のリズム──それらが、山間の湯治場の空気と重なっていた。

平賀こけし店では、工人の語りと制作の様子に触れ、絵付け体験では筆先に自分の感情を映した。こけしは、描いた人の記憶と感情が宿る“肖像”なのだと、あらためて感じた。

作並こけしは、派手さのない静かな造形美を持っている。飾るものではなく、暮らしの中に置いておきたくなる存在。季節の風景とともに、こけしは静かに語りかけてくる。

通販や店頭で手に入れることもできるが、やはり現地で出会うこけしには、特別な空気がある。誰が作ったのか、どんな思いで描かれたのか──その背景を知ることで、こけしは単なる“物”ではなく、“誰か”になる。

私はその温もりに触れたくて、また作並の湯治場を訪ねたくなるのだ。

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