【宮城県仙台市】難読地名「定義山」を訪ねるin青葉区西方寺・定義とうふ店の三角

地名は、土地の記憶を映す鏡だ。音の響き、漢字のかたち、そこに込められた意味──それらは、風景や暮らし、歴史と結びついている。私は地域文化を記録する仕事をしているが、地名の由来を探る旅は、いつも特別な感覚を伴う。

今回訪れたのは、宮城県仙台市青葉区大倉地区にある「定義山」。読み方は「じょうぎさん」か「じょうげさん」か──地元でも揺れがある難読地名だ。仙台市民の間では「じょうげさん」と呼ぶ人も多く、バス停や観光案内では「じょうぎさん」と表記される。どちらも間違いではなく、地名が人々の暮らしの中で柔らかく変化してきたことを物語っている。

定義山は、極楽山西方寺を中心とした信仰の地であり、平安末期の武士・平貞能(たいらのさだよし)に由来するという説が有力だ。彼がこの地に阿弥陀如来を祀り、名を「定義(さだよし)」と改めたことが、地名の始まりとされている。

私は秋の風が吹く定義山の門前町を歩き、西方寺の静けさに身を委ね、名物の三角あぶらあげを頬張りながら、地名に宿る祈りと記憶に触れる旅を始めた。

参考

宮城県「一生に一度の大願も叶うパワースポットといわれている定義山

定義如来 西方寺 | 【公式】仙台観光情報サイト - せんだい旅

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定義山の読み方──「じょうぎさん」なのか「じょうげさん」?

定義山の読み方は、地元でも揺れがある。観光案内や道路標識では「じょうぎさん」と表記されることが多いが、仙台市民の間では「じょうげさん」と呼ぶ人も少なくない。住所表記が「上下(じょうげ)」であること、仙台弁の発音特性、そして戦後の進駐軍地図でも「JOGE」と表記されていたことから、「じょうげ」が根強く残っている。

つまり、「定義山」は「じょうぎさん」とも「じょうげさん」とも読まれ、地名が人々の暮らしの中で柔らかく育まれてきたことを物語っている。

定義山の由来・語源・意味

定義山という地名は、山の名ではなく、極楽山西方寺を中心とする信仰の地の通称である。地名の由来は、平家の重臣・平貞能(たいらのさだよし)にある。彼は平重盛の家臣であり、壇ノ浦の戦いで平家が滅亡した後、源氏の追討を逃れて奥州へと落ち延びた。仙台市の秋保地区を経て、現在の青葉区大倉の地に隠棲し、阿弥陀如来を祀って静かに暮らしたと伝えられている。

その際、貞能は名を「定義(さだよし)」と改めた。これは「貞能」の訓読みを漢字で表したものであり、「定義」を音読みすると「じょうぎ」となる。地元では、住所表記が「上下(じょうげ)」であることから「じょうげさん」とも呼ばれ、仙台弁の発音特性も相まって、両方の読み方が混在している。

地名「定義」は、個人の改名と信仰が土地の名に変わった稀有な例であり、祈りと記憶が交差する言葉でもある。定義如来として知られる阿弥陀如来は、平重盛が唐代の高僧から贈られた宝軸を貞能が守り抜いたものとされ、彼の没後、従臣の早坂氏が堂を建てて祀ったのが西方寺の始まりである

定義山にある西方寺

定義山の中心にある極楽山西方寺は、正式には「浄土宗 極楽山西方寺」と称し、定義如来として広く知られている。創建は鎌倉時代とされ、平貞能が守り抜いた阿弥陀如来を祀るため、従臣の早坂氏が堂宇を建立したのが始まりと伝えられる。

本堂に祀られる阿弥陀如来は、唐代の高僧・善導大師が平重盛に贈った宝軸を、貞能が奥州に持ち込んだものとされる。堂内は八角形の天蓋にステンドグラスがはめ込まれ、二十五菩薩が楽器を奏でる姿が描かれている。光と音の象徴が空間に広がり、訪れる者の心を静かに包み込む。

境内には子育観音、水子地蔵、縁結び地蔵などが並び、家族連れの参拝者も多い。写経体験や授乳室、キッズスペースも整備されており、祈りの場でありながら、現代の暮らしに寄り添う設計がなされている。

五重塔は現在、令和の大修復中であり、境内の展示室「玉手箱」では塔のミニチュアや定義如来の縁起を知ることができる。鐘楼堂の釣鐘は、時を告げるだけでなく、参拝者の願いを空に響かせる存在として、静かに佇んでいる。

西方寺は、単なる寺院ではない。平安末期の祈りが、鎌倉、江戸、そして令和へと受け継がれ、空間そのものが信仰の器となっている。私は本堂の前に立ち、風に揺れる杉の葉音に耳を澄ませながら、定義という名に込められた祈りの深さを感じていた。

所在地:〒989-3213 宮城県仙台市青葉区大倉上下1

電話番号:0223932011

定義山の門前町を歩く

西方寺の参拝を終えた私は、門前町の通りへと足を向けた。石畳の道沿いには、定義とうふ店をはじめ、団子屋、焼きめし屋、土産物店、こけし工房、抹茶処「やすらぎ」などが軒を連ねている。平日にもかかわらず、観光客や地元の人々で賑わっており、祈りと暮らしが交差する空気が漂っていた。

定義とうふ店の三角あぶらあげ

まず向かったのは、定義とうふ店。店先には行列ができており、皆のお目当ては名物の三角あぶらあげだ。揚げたてを受け取り、ベンチに腰を下ろして頬張ると、外はカリッと香ばしく、中はふんわりとした豆腐の旨みが広がる。七味と醤油をかけると、味が引き締まり、素朴ながらも記憶に残る味わいだった。

あぶらあげがこの地で生まれた背景には、寺院の精進料理文化と、参拝者の胃袋を満たす門前町の工夫がある。丸鍋で揚げる際に三角形に切ることで効率よく調理できるようになったという話を聞き、食の形にも土地の知恵が宿っていることを実感した。

所在地: 〒989-3213 宮城県仙台市青葉区大倉下道1−2

電話番号: 022-393-2035

通りを歩くと、こけしの絵付け体験をする親子連れ、焼きめしを頬張る学生、抹茶を楽しむ年配の夫婦──それぞれの時間が流れていた。店の人々は気さくで、参拝の話や地元の昔話を聞かせてくれる。私は団子屋でみたらし団子を買い、甘じょっぱい香りに包まれながら、門前町の奥へと歩みを進めた。

途中、季節の花が咲く小道や、ホタルの案内板、雪灯籠の写真展示などがあり、定義山が四季折々の表情を持つことを知った。春には桜、夏にはホタル、秋には歩行者天国、冬には雪灯籠──この町は、祈りと自然、食と文化が融合する空間として、仙台市民の心の拠り所になっている。

私は門前町の最後の店で、定義如来の御守りを手に入れ、静かにポケットにしまった。祈りと味と人の気配──それらが重なり合い、定義山の記憶が私の中に静かに刻まれていった。

まとめ

定義山──その名は、平貞能という一人の武士の祈りから生まれた。平重盛の忠臣であった貞能は、平家滅亡後も阿弥陀如来の宝軸を守り抜き、奥州の山里にたどり着いた。彼が改名した「定義(さだよし)」という名が、地名となり、寺となり、今も人々の心を支えている。

極楽山西方寺は、鎌倉期から続く祈りの場であり、阿弥陀如来を中心に、子育観音、水子地蔵、縁結び地蔵などが並ぶ。八角形の天蓋に描かれた二十五菩薩の姿は、訪れる者の心に静かに響き、空間そのものが信仰の器となっている。

門前町は、定義とうふ店の三角あぶらあげをはじめ、団子屋、こけし工房、抹茶処などが並び、祈りと食、文化と人の気配が交差する場所となっている。あぶらあげの形には、精進料理の知恵と参拝者へのもてなしの心が宿っており、食べることもまた、土地の記憶に触れる行為なのだと感じた。

「じょうぎさん」「じょうげさん」──読み方の揺れもまた、地名が人々の暮らしの中で育まれてきた証だ。定義という言葉には、定めること、祈ること、守ること──そんな意味が静かに込められているように思える。

私は定義山を歩きながら、地名が風景と記憶の交差点であることを改めて感じた。西方寺の静けさ、あぶらあげの温もり、門前町の賑わい──それらが重なり合い、定義という名に宿る物語が、今も静かに息づいていた。

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