【宮城県大崎市】東北最大の互市へ探訪in鹿島台


鹿島台互市──市が立つ町に息づく、東北最大の市の記憶

2025年4月、私は宮城県大崎市鹿島台を訪れた。目的は、年に一度の「鹿島台互市」。東北最大規模といわれるこの市を、実際に歩いてみたかった。駅を降りると、春の光が町をやわらかく包んでいた。どこか懐かしい空気が漂い、遠くから祭囃子のようなざわめきが聞こえてくる。

宮城県大崎市「鹿島台互市

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鹿島台とは

鹿島台は、大崎市の南端に位置する地区で、かつては「鹿島台町」として独立した自治体だった。地名の由来には諸説あるが、古くは「鹿島村」と呼ばれ、常陸国の鹿島神宮との関連を指摘する説もある。鹿島神は武神・農耕神として信仰されており、開拓地にその名を冠する例は全国に見られる。「台」は台地状の地形を指し、古代からの農耕文化が重なって「鹿島台」という名が定着したとされる。

この地は、江戸時代から交通の要衝であり、仙台藩の街道が交差する宿場町として栄えた。特に、仙台城下から石巻港へ物資を運ぶ「石巻街道(石巻往来)」が通っており、鹿島台はその中継地として機能していた。街道沿いには商家が立ち並び、農産物や海産物の流通が盛んだった。その名残が、互市というかたちで今も続いている。

互市とは

「互市(たがいち)」とは、定期的に開かれる市(いち)のことで、古くは「互いに物を持ち寄って売買する市」という意味がある。鹿島台互市は、毎年4月と11月の2回開催され、特に春の互市は「春市」と呼ばれ、東北最大規模の市として知られている。

この日、駅前から続く通りには、数百軒の露店が並んでいた。農具、苗木、日用品、骨董、衣料品、食品──まるで町全体がひとつの市場になったようだった。歩いていると、時代を越えて市が立っているような錯覚に陥る。

地元の方に話を聞くと、「昔は馬まで売ってたんだよ」と笑う。昭和初期までは農耕馬の売買も行われていたという。互市は、単なる物販ではなく、農の営みと生活のリズムを支える「市の文化」だったのだ。

鹿島台神社へ

市の賑わいを抜けて、私は鹿島台神社へ向かった。互市の中心から少し歩いた場所にあるこの神社は、町の守り神として古くから親しまれている。境内は静かで、杉の木立が風に揺れていた。

祭神は武甕槌命(たけみかづちのみこと)。常陸国・鹿島神宮の主祭神でもあり、武神・農耕神・開拓神として広く信仰されている。鹿島台にこの神が祀られているのは、開拓地としての歴史と、鹿島神宮との信仰的つながりを物語っている。

拝殿に手を合わせながら、私はこの土地の歴史と人々の営みに思いを馳せた。市が立つ町には、必ず祈りがある。鹿島台神社は、互市の喧騒を静かに見守る存在だった。

所在地: 〒989-4104 宮城県大崎市鹿島台広長鹿島14
電話番号: 0229-56-2386

名物を買う──市の味を持ち帰る

市を歩いていると、香ばしい匂いに誘われて、地元の屋台に足が止まった。焼きたての「鹿島台焼きまんじゅう」。ふわっとした皮に、甘じょっぱい味噌だれが絡んでいる。ひと口食べると、懐かしいような、初めてのような味が広がった。

隣の店では、地元産の漬物や味噌、手作りの干し餅が並んでいた。私は「赤かぶ漬け」と「くるみ味噌」を購入。どちらもこの地域の冬の保存食文化に根ざした名産品だ。

「赤かぶ漬け」は、寒暖差のある大崎耕土で育った赤かぶを使い、甘酢と塩で漬け込む伝統の味。鮮やかな紅色とシャキッとした食感が特徴で、祝い膳にも用いられる。「くるみ味噌」は、地元産の味噌に炒ったくるみを加えたもので、昔から農家の副食やおにぎりの具として親しまれてきた。店の方が「これはうちのばあちゃんの味」と笑ってくれた。市で買うものには、物語がある。それが互市の魅力なのだ。

他地域の互市──市の文化の広がり

互市は鹿島台だけのものではない。東北各地には、互市文化が今も息づいている。

  • 福島県須賀川市の「牡丹台互市」:旧奥州街道沿いで開かれる市で、農具や苗木の市として知られる。
  • 山形県長井市の「長井互市」:最上川舟運の拠点として栄えた町で、春と秋に市が立つ。
  • 岩手県一関市の「川崎互市」:北上川流域の農村地帯で、農産物と民芸品の市が盛ん。

これらの市に共通するのは、交通の要衝であること、農業地帯であること、そして地域の人々が市を守り続けていること。鹿島台もまた、街道と農耕文化が交差する場所であり、互市が根づく条件をすべて備えている。

周辺の観光スポット──市の余韻を歩く

鹿島台互市を訪れたなら、ぜひ周辺の文化的な風景にも足を延ばしてほしい。まずおすすめしたいのが「松山御本丸公園」。かつて伊達家の支城があった場所で、春には桜が咲き誇り、城跡の石垣とともに歴史の気配が漂う。少し足を伸ばせば「大崎八幡神社」や「鳴子温泉郷」も視野に入る。農と信仰、湯と語りが交差するこの地域は、互市の文化的背景をより深く理解する手がかりにもなる。また、地元の直売所「かしま台ふれあい市場」では、互市とは違った日常の市が立ち、旬の野菜や加工品が並ぶ。市の賑わいの余韻を感じながら、静かな里の風景に身を委ねる──それもまた、鹿島台の魅力だ。

よくある質問──鹿島台互市を訪れる前に

Q. 鹿島台互市はいつ開催されますか? A. 毎年4月と11月の2回開催されます。春市(4月)は特に規模が大きく、東北最大級の市として知られています。

Q. 駐車場や交通アクセスは? A. 鹿島台駅から徒歩圏内で市が広がります。臨時駐車場も設けられますが、混雑するため公共交通の利用がおすすめです。

Q. どんなものが売られていますか? A. 農具、苗木、漬物、味噌、衣料品、骨董、屋台グルメなど多岐にわたります。地元の手仕事品も豊富です。

Q. 雨天でも開催されますか? A. 基本的には雨天決行ですが、荒天時は規模縮小や中止の可能性もあるため、事前に大崎市の公式情報をご確認ください。


鹿島台互市。そこには、物を売るだけではない、土地の記憶と人の営みが息づいていた。市が立つ町には、声があり、風があり、祈りがある。私はこの町を歩きながら、互市という言葉の奥にある「交わり」の意味を静かに感じていた。

焼きまんじゅうの香り、神社の静けさ、露店の笑顔──それらすべてが、鹿島台の文化の奥深さを語っていた。

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