【宮城県大崎市】東北最大の互市「鹿島台互市」を訪ねるin鹿島台昭和通り
鹿島台互市──市が立つ町に息づく、東北最大の市の記憶
宮城県大崎市鹿島台で毎年春と秋に開かれる「鹿島台互市(かしまだいたがいち)」は、東北最大級の規模を誇る伝統の市である。互市とは「互いに物を持ち寄って売買する市」を意味し、古くから農村の暮らしを支える重要な場であった。鹿島台互市の歴史は明治43年(1910年)、当時の村長・鎌田三之助が村民の生活向上を目的に農産物や加工品の販売を奨励したことに始まる。以来100年以上にわたり、地域の人々の交流と経済を支える場として続いてきた。
春の互市は「春市」と呼ばれ、毎年4月10日から12日の3日間にわたり開催される。JR鹿島台駅前から昭和通りにかけて約600メートルの通りに、農産物や苗木、衣料品、骨董、食品などを扱う180軒以上の露店が並び、町全体が巨大な市場へと変貌する。かつては農耕馬の売買も行われ、農業と生活を支える総合的な市として栄えた。現在でも、農具や苗木を求める農家、地元の漬物や味噌を買い求める人々、掘り出し物を探す観光客で賑わい、互市は地域文化の象徴として息づいている。
私は2025年春、この鹿島台互市を訪れた。駅を降りると、春の光に包まれた町に祭囃子のようなざわめきが響き、懐かしい空気が漂っていた。互市は単なる物販の場ではなく、土地の記憶と人々の営みが交差する「市の文化」そのものである。
宮城県大崎市「鹿島台互市」
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鹿島台互市とは
「鹿島台互市(かしまだいたがいち)」は、宮城県大崎市鹿島台で毎年4月と11月に開かれる伝統的な市である。互市とは「互いに物を持ち寄って売買する市」を意味し、古くから農村の暮らしを支える重要な場であった。鹿島台互市の始まりは明治43年(1910年)、当時の村長・鎌田三之助が村民の生活向上を目的に農産物や加工品の販売を奨励したことに遡る。以来100年以上にわたり、地域の人々の交流と経済を支える場として続いてきた。
特に春の互市は「春市」と呼ばれ、東北最大規模の市として知られている。JR鹿島台駅前から昭和通りにかけて約600メートルの通りに、農具、苗木、衣料品、食品、骨董などを扱う数百軒の露店が並び、町全体が巨大な市場へと変貌する。かつては農耕馬の売買も行われ、農業と生活を支える総合的な市として機能していた。現在でも農具や苗木を求める農家、地元の漬物や味噌を買い求める人々、掘り出し物を探す観光客で賑わい、互市は地域文化の象徴として息づいている。
互市の魅力は、単なる物販にとどまらない。そこには土地の食文化や手仕事、そして人々の物語が息づいている。地元の名産であるデリシャストマトやばっけ味噌、岩出山かりんとうなどが並び、訪れる人々は味覚を通じて地域の暮らしに触れることができる。さらに、互市の背後には鹿島台神社の存在があり、町の守り神が市の賑わいを静かに見守っている。
地元の方に話を聞くと、「昔は馬まで売ってたんだよ」と笑う。昭和初期までは農耕馬の売買も行われていたという。互市は、単なる物販ではなく、農の営みと生活のリズムを支える「市の文化」だったのだ。
参考
東北放送「鹿島台互市(春・秋)」
大崎市 鹿島台 互市
所在地:〒989-4103 宮城県大崎市鹿島台平渡新屋敷下126−5昭和通り
鹿島台互市にて名物を買う
互市の通りを歩いていると、まず目に留まったのは「岩出山かりんとう」を売る屋台だった。袋を開けると、黒糖の香ばしい匂いがふわりと広がる。ひと口かじると、カリッとした歯ごたえのあとに、じんわりとした甘さが口いっぱいに広がった。素朴でありながらも奥深い味わいで、昔ながらのおやつが今も人々に愛されていることを実感した。隣で買い求めていた年配の女性が「子どもの頃から変わらない味なのよ」と笑顔で話してくれたのが印象的だった。
さらに歩を進めると、真っ赤に熟した「デリシャストマト」や「しそ巻き」が並ぶ青果店に出会った。鹿島台はトマトの名産地として知られ、特にこの「デリシャストマト」は糖度が高く、濃厚な甘みと酸味のバランスが絶妙だという。試食を勧められて口にすると、果汁が弾けるように広がり、まるで果物のような甘さに驚かされた。農家の方が「昼夜の寒暖差があるから、こんなに甘くなるんです」と誇らしげに語ってくれた。「しろ巻き」は大崎市鳴子発祥とも言われる郷土食だ。爪楊枝に刺して食べれるため食べ歩きに良い。互市は単なる市場ではなく、生産者と消費者が直接言葉を交わし、土地の恵みを共有する場であることを実感した瞬間だった。
もう一つ、どうしても手に入れたかったのが「ばっけ味噌」だ。ばっけとは東北の方言でふきのとうのこと。春の山菜の代表格であるふきのとうを刻み、味噌と炒め合わせたこの郷土食は、ほろ苦さと香りが特徴で、ご飯や酒の肴にぴったりだ。店先で味見をすると、口の中に春の山の香りが広がり、味噌のコクと苦みが絶妙に調和していた。店主は「春先になると、ばっけを摘んで仕込むのがうちの恒例なんです」と語り、瓶詰めを手渡してくれた。互市で買う品には、必ずその土地の暮らしと季節の記憶が宿っている。
岩出山かりんとうの甘さ、デリシャストマトの瑞々しさ、ばっけ味噌のほろ苦さ──それぞれの味わいは、鹿島台の風土と人々の営みを映し出していた。互市を歩くことは、単に買い物をするだけでなく、土地の文化と出会い、人々の物語に触れる旅そのものだった。
鹿島台神社へ
市の賑わいを抜けて、私は鹿島台神社へ向かった。互市の中心から少し歩いた場所にあるこの神社は、町の守り神として古くから親しまれている。境内は静かで、杉の木立が風に揺れていた。
祭神は武甕槌命(たけみかづちのみこと)。常陸国・鹿島神宮の主祭神でもあり、武神・農耕神・開拓神として広く信仰されている。鹿島台にこの神が祀られているのは、開拓地としての歴史と、鹿島神宮との信仰的つながりを物語っている。
拝殿に手を合わせながら、私はこの土地の歴史と人々の営みに思いを馳せた。市が立つ町には、必ず祈りがある。鹿島台神社は、互市の喧騒を静かに見守る存在だった。
所在地: 〒989-4104 宮城県大崎市鹿島台広長鹿島14
電話番号: 0229-56-2386
他地域の互市──市の文化の広がり
互市は鹿島台だけのものではない。東北各地には、互市文化が今も息づいている。
- 福島県須賀川市の「牡丹台互市」:旧奥州街道沿いで開かれる市で、農具や苗木の市として知られる。
- 山形県長井市の「長井互市」:最上川舟運の拠点として栄えた町で、春と秋に市が立つ。
- 岩手県一関市の「川崎互市」:北上川流域の農村地帯で、農産物と民芸品の市が盛ん。
これらの市に共通するのは、交通の要衝であること、農業地帯であること、そして地域の人々が市を守り続けていること。鹿島台もまた、街道と農耕文化が交差する場所であり、互市が根づく条件をすべて備えている。
鹿島台とは
鹿島台は、大崎市の南端に位置する地区で、かつては「鹿島台町」として独立した自治体だった。地名の由来には諸説あるが、古くは「鹿島村」と呼ばれ、常陸国の鹿島神宮との関連を指摘する説もある。鹿島神は武神・農耕神として信仰されており、開拓地にその名を冠する例は全国に見られる。「台」は台地状の地形を指し、古代からの農耕文化が重なって「鹿島台」という名が定着したとされる。
この地は、江戸時代から交通の要衝であり、仙台藩の街道が交差する宿場町として栄えた。特に、仙台城下から石巻港へ物資を運ぶ「石巻街道(石巻往来)」が通っており、鹿島台はその中継地として機能していた。街道沿いには商家が立ち並び、農産物や海産物の流通が盛んだった。その名残が、互市というかたちで今も続いている。
周辺の観光スポット──市の余韻を歩く
鹿島台互市を訪れたなら、ぜひ周辺の文化的な風景にも足を延ばしてほしい。まずおすすめしたいのが「松山御本丸公園」。かつて伊達家の支城があった場所で、春には桜が咲き誇り、城跡の石垣とともに歴史の気配が漂う。少し足を伸ばせば田尻の「大崎八幡神社」や「鳴子温泉郷」も視野に入る。農と信仰、湯と語りが交差するこの地域は、互市の文化的背景をより深く理解する手がかりにもなる。また、地元の直売所「かしま台ふれあい市場」では、互市とは違った日常の市が立ち、旬の野菜や加工品が並ぶ。市の賑わいの余韻を感じながら、静かな里の風景に身を委ねる──それもまた、鹿島台の魅力だ。
よくある質問──鹿島台互市を訪れる前に
Q. 鹿島台互市はいつ開催されますか? A. 毎年4月と11月の2回開催されます。春市(4月)は特に規模が大きく、東北最大級の市として知られています。
Q. 駐車場や交通アクセスは? A. 鹿島台駅から徒歩圏内で市が広がります。臨時駐車場(鎌田記念ホールに500台駐車可能)も設けられますが、混雑するため公共交通の利用がおすすめです。 参考:大崎市「鹿島台互市」
所在地:〒989-4102 宮城県大崎市鹿島台木間塚福芦335−1
Q. どんなものが売られていますか? A. 農具、苗木、漬物、味噌、衣料品、骨董、屋台グルメなど多岐にわたります。地元の手仕事品も豊富です。
Q. 雨天でも開催されますか? A. 基本的には雨天決行ですが、荒天時は規模縮小や中止の可能性もあるため、事前に大崎市の公式情報をご確認ください。
まとめ
鹿島台互市を訪れて強く感じたのは、この市が単なる物販の場ではなく、地域の歴史と文化を映す「生きた舞台」であるということだ。明治期に始まり、農具や苗木、日用品の売買を通じて村民の生活を支えてきた互市は、100年以上の時を経てもなお続いている。かつては農耕馬の取引まで行われ、農業と生活を支える総合的な市として機能していた。その名残は今も農具や苗木の販売に見られ、農の営みと深く結びついている。
今回の訪問で出会った名物は、いずれも土地の記憶を宿していた。岩出山かりんとうは、素朴で懐かしい甘さを通じて世代を超えて愛されてきたおやつであり、デリシャストマトは鹿島台の自然条件が生み出す濃厚な味わいを誇る農産物だった。そして「ばっけ味噌」や「しそ巻き」は、春の山菜文化を今に伝える郷土の味であり、季節の移ろいを食卓に映す存在であった。互市で買い求めた品々は、単なる商品ではなく、作り手の暮らしや土地の風土を語る「物語」そのものだった。
さらに、互市の背後には鹿島台神社の存在がある。武甕槌命を祀るこの神社は、町の守り神として互市を静かに見守り続けてきた。市の賑わいと祈りが一体となることで、互市は単なる市場以上の意味を持ち、地域の誇りを象徴する文化遺産となっている。
鹿島台互市を歩くことは、東北の市文化の奥深さに触れる旅である。声と匂いと祈りが交差する町の風景は、過去と現在をつなぎ、未来へと受け継がれていく。鹿島台互市は、地域の暮らしと文化を今に伝える、かけがえのない文化遺産なのである。
