【宮城県名取市】日本一の閖上「赤貝」とは?味や食べ方、栄養素、旬や産地をたずねる|神事で使われる供物・かわまちてらす閖上

名取市の赤貝の寿司

宮城県名取市──仙台市の南に位置するこの町は、震災の記憶とともに、豊かな海の恵みを育んできた場所でもある。笹かまぼこの原料となるヒラメやしらすなど魚介類が有名だが、その中でも、全国の寿司職人が「日本一」と称える食材がある。それが「閖上(ゆりあげ)の赤貝」だ。

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赤貝は、江戸前寿司には欠かせない高級ネタ。築地市場でも「閖上産が最高」と言われるほどの評価を受けている。ミシュラン三つ星の寿司職人もその品質を認めるほどだ。だが、なぜ名取市閖上で、これほどまでに質の高い赤貝が育つのか──その理由を知りたくて、私は名取市を訪れた。

目的は、名取川の河口に広がる「かわまちてらす閖上」にある「漁亭浜や」で、赤貝丼定食を味わうこと。そして、赤貝という食材の背景にある海と人の物語を探ること。

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宮城県名取市の沿岸部に位置する「閖上(ゆりあげ)」は、漁港と朝市で知られる港町だ。名取川の河口に広がるこの地は、古くから海とともに生きる町として栄えてきた。だ…

赤貝の語源については諸説あるが、古語の「赤神(あかがみ)」──海の神に捧げる神聖な貝という説もある。これは民俗学的な解釈で、赤貝の赤い身が神事に用いられたことに由来するとも言われている。ただし、語源辞典などによると、実際には「肉の色が赤いこと」に由来するという説が有力である。

宮城では古くから赤貝が食されてきた。特に閖上では、祝いの席や正月料理に赤貝が登場することもあり、地元の人々にとっては「特別な貝」として親しまれてきた。赤貝は、海の恵みであると同時に、地域の誇りでもあるのだ。

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参考

宮城県「みやぎの産物

名取市観光協会「閖上赤貝 (ゆりあげあかがい)

旅東北「閖上の赤貝(名取市)

赤貝とは?その由来と特徴

赤貝は、二枚貝の一種で、正式には「サルボウガイ科アカガイ属」に分類される。殻は赤褐色で放射状の筋が入り、身は鮮やかな赤色。鉄分を多く含むため、加熱しても色が変わりにくく、独特の甘みと歯ごたえがある。寿司ネタとしては「握り」で提供されることが多く、江戸前寿司の定番として知られている。

赤貝の語源は、その赤い身に由来するとも、古語の「赤神(あかがみ)」=海の神に捧げる貝から来ているとも言われる。古くは神事にも用いられ、縁起の良い食材として扱われてきた。

特徴は、なんといってもその香りと食感。磯の香りが強く、噛むほどに甘みが広がる。鮮度が命の食材であり、産地で食べるのが最も美味しいとされる。だからこそ、築地市場では「閖上産」が重宝されるのだ。

参考

名取市「名取市の名産品・特産品

赤貝の産地と旬

赤貝は国内では陸奥湾、三陸沿岸、仙台湾、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海などで漁獲されていたが、近年は入手が難しくなり、閖上産が市場で高値を付けるようになったという。

旬は一般的に冬から春にかけてとされ、特に寒さが厳しい時期に身が締まり、旨味と歯ごたえが際立つ。閖上では正月料理や祝いの席に赤貝が登場することもあり、地元の人々にとって季節を告げる特別な食材である。夏場は漁獲量が減るため、冬から春にかけての赤貝が最も美味しいとされる。鮮度が命の食材であるため、産地で食べる赤貝は格別で、築地市場でも「閖上産が最高」と評価されてきた。

参考

閖上赤貝組合

名取市観光協会「日本一 閖上の赤貝

赤貝の食べ方

赤貝は鮮度が命の食材であり、最も一般的なのは寿司の握りとしての提供である。身の赤さと独特の香りが際立ち、噛むほどに甘みが広がるため、江戸前寿司では欠かせない高級ネタとされてきた。刺身としてそのまま味わうことも多く、身の部分だけでなく「ヒモ」と呼ばれる周囲の部分も人気がある。ヒモはコリコリとした食感が特徴で、酒の肴としても好まれる。

また、酒蒸しや煮付けにすると、赤貝の旨味が柔らかく広がり、刺身とは異なる深い味わいを楽しめる。調理前には砂抜きが必要で、海底の砂泥に生息するため、丁寧に処理しなければならない。鮮度が落ちると食中毒の危険性があるため、産地での朝獲れをすぐに食べるのが最も安全で美味しいとされる。閖上では漁師がその日のうちに市場へ出荷するため、鮮度の高さが評価されている。

赤貝の味と栄養

赤貝の味は、磯の香りと鉄分由来の独特の甘みが特徴である。噛むほどに旨味がじんわりと広がり、歯ごたえはしっかりしているが硬すぎず、心地よい弾力を持つ。ヒモ部分は香りが強く、身とは異なる食感を楽しめる。酒蒸しや煮付けでは甘辛い味付けがよく合い、赤貝の旨味をさらに引き立てる。

栄養面では、鉄分を豊富に含み、貧血予防に効果的とされる。また、タンパク質や亜鉛も多く含まれ、免疫力の維持や疲労回復に役立つ。低脂肪でありながら栄養価が高いため、健康食材としても注目されている。さらに、赤貝の鮮やかな赤色は鉄分によるもので、加熱しても色が変わりにくいのが特徴だ。

参考

食品成分データベース「魚介類/<貝類>/あかがい/生 - 01.一般成分表-無機質-ビタミン類

なぜ名取市は「日本一の赤貝の町」なのか

名取市閖上地区は、名取川の河口に位置し、仙台湾に面した漁業の町。赤貝の養殖に適した環境が揃っている。水温、塩分濃度、潮の流れ──それらが絶妙なバランスで保たれているのが、この海域なのだ。

赤貝は、砂泥質の海底に生息するため、水質と底質の管理が重要になる。閖上の海は、名取川から流れ込む淡水と、仙台湾の海水が混ざり合うことで、赤貝にとって理想的な環境を生み出している。さらに、漁師たちの丁寧な手入れと長年の経験が、品質の高さを支えている。

震災後、閖上の漁業は壊滅的な打撃を受けた。しかし、漁師たちは赤貝の養殖を再開し、品質を守り続けてきた。その努力が実を結び、今では「閖上の赤貝」は全国の市場で高値で取引されるようになった。

赤貝は、名取市の誇りであり、復興の象徴でもある。海と人の営みが育てた、まさに「海の宝石」なのだ。

所在地:〒981-1213 宮城県名取市

参考

名取市観光物産協会日本一 閖上の赤貝

かわまちてらす閖上「漁亭浜や」で赤貝を食べる

名取川の清流を望む「かわまちてらす閖上」は、震災後に整備された観光交流施設。その一角にある「漁亭浜や」は、地元の海の幸をふんだんに使った料理を提供する人気店だ。私はここで、赤貝丼定食を注文した。

運ばれてきた丼には、艶やかな赤貝の身が美しく並べられていた。赤褐色の殻を剥かれた身は、鮮やかな朱色で、まるで宝石のように輝いている。まずは一口。噛んだ瞬間、磯の香りがふわっと広がり、次に甘みがじんわりと舌に染みる。歯ごたえはしっかりしているが、硬すぎず、心地よい弾力がある。

ご飯は地元産の米を使用しており、赤貝の旨味をしっかりと受け止めてくれる。添えられた味噌汁には、名取市産のせりが入っていて、シャキシャキとした食感がアクセントになっていた。小鉢には赤貝の塩辛も添えられており、これがまた絶品。濃厚な旨味と塩気が酒を誘う味だった。

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さらに、赤貝の煮付けもついていた。甘辛い味付けが赤貝の旨味を引き立て、噛むほどに味が染み出す。刺身とはまた違った魅力があり、赤貝の多様な表情を楽しめる一品だった。

店内は木の温もりがあり、窓からは名取川の流れが見える。静かな空気の中で、赤貝を味わう時間は、まるで海と対話しているようだった。店員の方に話を聞くと、「赤貝は鮮度が命。閖上産は朝獲れをすぐに使うから、香りと甘みが違う」と教えてくれた。

この一杯には、名取の海と人の記憶が詰まっていた。赤貝丼定食は、ただの食事ではなく、名取という町の誇りを味わう体験だった。

漁亭浜や かわまちてらす閖上店

所在地:〒981-1213 宮城県名取市閖上中央1丁目6番地

電話番号:0223985547

まとめ

名取市閖上──この町の赤貝は、ただの海産物ではない。それは、海と人の営みが育てた誇りであり、震災からの復興を支えた希望の象徴でもある。築地市場で「日本一」と称されるその品質は、名取川の水、仙台湾の潮、そして漁師たちの技術と情熱が生み出したものだ。

赤貝は、鮮度が命の食材。だからこそ、産地で食べるのが一番美味しい。「漁亭浜や」で味わった赤貝丼定食は、まさにその美味しさを体現していた。磯の香り、甘み、歯ごたえ──すべてが調和し、ひと口ごとに名取の海が広がっていくようだった。

語源については、「赤神=海の神に捧げる貝」という説もあるが、語源辞典によると「肉の色が赤いこと」に由来するというのが有力である。とはいえ、赤貝が神事や祝いの席に登場してきた歴史は、名取の人々の中に確かに息づいている。

宮城県は、震災の苦難を乗り越え、海の恵みを守り続けてきた町だ。赤貝はその象徴であり、未来への希望でもある。私はこの町を訪れて、赤貝を味わい、その背景にある物語に触れることができた。

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赤貝は、海の宝石──そして名取の誇り。また季節を変えて、閖上の海を眺めながら、もう一度この味に出会いたいと思う。

投稿者プロ フィール

東夷庵
東夷庵
地域伝統文化ディレクター
宮城県出身。京都にて老舗和菓子屋に勤める傍ら、茶道・華道の家元や伝統工芸の職人に師事。
地域観光や伝統文化のPR業務に従事。

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