【宮城県大崎市】郷土料理「しそ巻き」とは?由来・栄養・レシピ・道の駅購入体験まで徹底解説in発祥地鳴子温泉
私は地域文化を記録する仕事をしている。制度や建築では見えてこない、暮らしの中に息づく味や風習──それらを拾い上げ、現地の空気を吸い込みながら言葉にする。それが私の旅のかたちだ。
その延長として、宮城の地域文化をお茶とともに味わう「煎茶サロン」も開いている。季節の和菓子や土地の話題を囲みながら、静かに茶を点てる時間は、記録者としての私にとっても、語り手としての私にとっても、大切なひとときだ。
今回訪れたのは、大崎市鳴子温泉。湯治文化が今も息づくこの地で、私は「しそ巻き」という郷土料理に出会った。道の駅で手に取ったその一串は、青じその香りと味噌の甘辛さが絶妙に絡み合い、ひと口で土地の記憶が広がった。
しそ巻きは、青じその葉で味噌を包み、油で揚げた素朴な一品。だがその背景には、仙台味噌の文化、薬草としてのしその歴史、湯治客へのもてなし、そして伊達政宗の味噌奨励政策までが折り重なっている。
私はこの一串に惹かれた。なぜこの形なのか。なぜこの味なのか。なぜこの土地で生まれ、今も続いているのか──その問いを胸に、鳴子の町を歩き、しそ巻きの物語を辿った。
参考
農林水産省「しそ巻き 宮城県 | うちの郷土料理」
せんだい旅日和「(有)東北いちば | 【公式】仙台観光情報サイト 」
しそ巻きとは?|読み方・特徴・食べ方・季節性
しそ巻き──読み方は「しそまき」。宮城県を中心に東北地方で親しまれている郷土料理である。青じその葉で味噌を包み、楊枝で留めて油で揚げる。見た目は素朴だが、香りと味の重なりが深く、食べるたびに土地の空気が広がる。とくに大崎市鳴子温泉が発祥地と言われており、同じように「ばっけ味噌」など味噌をつかった郷土料理も有名だ。
味噌には、砂糖・くるみ・ごま・唐辛子などを練り込むのが一般的。仙台味噌をベースにした甘辛い味噌が多く、家庭や地域によって配合が異なる。揚げたてはパリパリとした食感が楽しめ、冷めても旨味が残る。冷蔵保存で1週間ほど持ち、冷凍すれば長期保存も可能だ。
食べ方は多彩で、ご飯のお供としてはもちろん、お茶うけや酒の肴、弁当のおかずにもなる。夏場の体力が落ちる時期には、しその香りと味噌の栄養が元気の源になる。通年販売されており、道の駅やスーパーでも手軽に購入できる。
最近では、油で揚げるタイプだけでなく、鉄板焼きタイプも登場している。油っぽさが少なく、しその葉のパリッとした食感が際立つ。はちみつ味や黒ごま味など、バリエーションも豊富で、ギフト用としても人気が高い。
しそ巻きは、庶民の知恵と土地の素材が融合した“食べる民俗”である。ひと串に込められた香りと味は、宮城の風土そのものなのだ。
しそ巻きの由来と歴史|伊達政宗・鳴子温泉・仙台味噌
しそ巻きの起源は定かではないが、宮城県では鳴子温泉で湯治客に振る舞われたという説が根強い。湯治文化が根付く鳴子では、体力を回復させるための滋養食として、しそ巻きが重宝された。青じその香りと味噌の栄養が、疲れた身体を癒す一品だったのだ。
味噌文化の背景には、仙台藩主・伊達政宗の存在がある。政宗は城内に「御塩噌蔵」を築き、仙台味噌の製造を奨励した。その流れを汲み、宮城県では味噌が日常の食卓に根付き、しそ巻きのような郷土料理が生まれた。
しそは、縄文時代の遺跡から種の化石が出土するほど古くから食されてきた薬草である。制菌・防腐作用があり、食中毒の予防にも効果的。青じそは特にビタミンやミネラルが豊富で、現代ではアレルギー緩和の効果も注目されている。
宮城県は大豆の作付け面積が全国2位。味噌の原料となる大豆が豊富に育つ土地だからこそ、発酵食品の味噌文化が根付き、しそ巻きのような料理が生まれた。ごまやくるみも仏教伝来とともに日本に広まり、僧侶の栄養源として重宝された食材だ。
しそ巻きは、味噌・しそ・ごま・くるみ──それぞれが土地の歴史と文化を背負っている。鳴子温泉の湯気の向こうに、政宗の味噌蔵と縄文の薬草が重なって見える。しそ巻きは、宮城の風土が形になった“語りの料理”なのだ。
参考
農林水産省「令和5年産大豆(乾燥子実)の収穫量」
栄養と素材の魅力|青じそ・味噌・ごま・くるみ・油
しそ巻きの魅力は、その素朴な味わいだけではない。使われている素材ひとつひとつが、滋養と文化を背負っている。
まず主役の青じそ。古代から薬草として親しまれてきたこの葉は、ビタミンA・B群・C、カルシウム、鉄、カリウムなどのミネラルを豊富に含み、制菌・防腐作用にも優れているという。夏場の食中毒予防や、アレルギー症状の緩和にも効果があるとされている。
包まれる味噌は、宮城県産の無添加味噌。国産大豆と米を使い、発酵によって生まれるアミノ酸が消化吸収を助ける。乳酸菌も豊富で、腸内環境を整える働きがある。仙台味噌の深いコクと香りが、しその爽やかさと絶妙に調和する。
ごまは、リノール酸やオレイン酸といった不飽和脂肪酸を多く含み、動脈硬化の予防やストレス緩和に効果的。ビタミンEや鉄、カルシウムも豊富で、老化防止や美肌効果も期待できる。
くるみは高エネルギー食品で、良質な脂質とたんぱく質を含む。リノール酸とビタミンEの相乗効果で、血管をしなやかに保ち、疲労回復や美肌にも一役買う。
そして、揚げ油にはコレステロールゼロのキャノーラ油を使用。オレイン酸やリノール酸が豊富で、血中コレステロールを下げる働きがある。
こうして見ると、しそ巻きは“食べる薬草文化”とも言える。味わいの奥に、土地の知恵と健康への願いが込められている。
参考
JAグループ「シソ(紫蘇)|とれたて大百科|食や農を学ぶ」
山田商店「鳴子の季節 ~おいしい山田のしそ巻~」「おいしい山田のしそ巻き」
作り方とレシピ
しそ巻きは、家庭でも比較的手軽に作ることができる。材料はシンプルだが、ひとつひとつに意味があり、手をかけるほどに味わいが深まる。
【材料(約100串分)】
- 青じその葉(ちりめんじそ):400〜500枚
- 赤味噌:500g
- 砂糖:250〜500g(好みで調整)
- 薄力粉:250g
- むきぐるみ:150g(粗く刻む)
- 白ごま:25g
- 七味唐辛子:6g
【作り方】
- 青じその葉を洗い、水気を拭き取る。葉柄を取り除く。
- 材料A(味噌・砂糖・粉・くるみ・ごま・唐辛子)を鍋に入れ、弱火で練る。焦げないよう木べらで混ぜ続け、やや柔らかめの練り味噌を作る。
- 冷ました練り味噌を棒状にまとめ、青じその葉で巻く。
- 3〜4本ずつ楊枝に刺し、170度の油でカラッと揚げる。
- 油をしっかり切り、冷暗所で保存。冷蔵で1週間、冷凍で長期保存も可能。
家庭によっては、味噌にピーナッツや梅を加えたり、焼きしそ巻きにしたりと、アレンジも多彩だ。揚げたてを頬張るのも良いが、冷めて味がなじんだものもまた格別。しそ巻きは、台所の記憶とともに受け継がれてきた、家庭の味そのものだ。
実食レビュー
本州最多の泉質数を誇る鳴子温泉。日本テレビ「秘密のケンミンショー」でも取り上げられた「栗だんご」が有名だが、買い求めると必ずと言っていいほど「しそ巻」が近くに置いてある。なぜだろうと不思議に思っていたが、大崎の名産品らしい。鳴子温泉での湯治からの帰り道に、大崎市岩出山にある「あ・ら・伊達な道の駅」に立ち寄った。地元の特産品がずらりと並ぶ中、目に留まったのが「しそ巻き」コーナーだった。個人で作ったものから、地元の商店が生産しているものまで多種多様で選ぶのも楽しい。パッケージの中には、楊枝に刺さった緑の小さな巻物が整然と並んでいる。私は10個入りのしそ巻セットを手に取り、家に戻ってからさっそく味わってみた。
袋を開けると、ふわりと広がる青じその香り。ひと口かじると、パリッとした食感のあとに、甘辛い味噌の旨味がじんわりと広がる。ごまの香ばしさとくるみのコクが、味噌の奥行きをさらに深めている。しその清涼感が全体を引き締め、後味は驚くほど軽やかだった。
冷めても美味しいが、少し温めると味噌の香りが立ち、より一層食欲をそそる。私は煎茶とともにいただいたが、日本酒との相性も抜群だろう。お茶うけにも、晩酌にも、弁当のおかずにもなる──まさに万能の郷土食だと実感した。さっそく子供にもあげたが今となっては大好物になっている。くせになる味だ。
道の駅では、鉄板焼きタイプや黒ごま味、はちみつ味などのバリエーションも販売されていた。どれも手作業で丁寧に作られており、地元の人々の誇りと愛情が伝わってくる。
しそ巻きは、旅の記憶を持ち帰るのにふさわしい一品だった。土地の素材と知恵が詰まったこの小さな巻物は、まさに“食べる民俗”そのものだった。
あ・ら・伊達な道の駅
所在地:〒989-6405 宮城県大崎市岩出山池月下宮苗代目4−1
電話番号:0229732236
まとめ
しそ巻きは、宮城県大崎市を中心に東北地方で親しまれてきた郷土料理である。青じその葉で味噌を包み、楊枝で留めて油で揚げる──その素朴な一串には、土地の素材と文化がぎゅっと詰まっている。
味噌は、伊達政宗が城内に「御塩噌蔵」を築いて奨励した仙台味噌。その深いコクに、くるみやごま、唐辛子などを練り込むことで、滋養と旨味が重なる。青じそは縄文時代から薬草として食されてきた歴史を持ち、制菌・防腐作用に加え、ビタミンやミネラルも豊富。ごまやくるみは仏教伝来とともに日本に広まり、僧侶の栄養源として重宝された食材だ。
鳴子温泉では、湯治客の体力回復のためにしそ巻きが振る舞われたという説も残る。夏の暑さで消耗した身体に、甘辛い味噌と爽やかな青じその香りが染み渡る。道の駅やスーパーでは通年販売されており、揚げたてのパリパリ感、冷めても残る旨味は、家庭の味としても定着している。
最近では、鉄板焼きタイプやはちみつ味、黒ごま味などのバリエーションも登場し、ギフト用としても人気が高い。価格も手頃で、旅の手土産や季節の贈り物としても重宝されている。
私は鳴子温泉の道の駅でしそ巻きを手に取り、煎茶とともに味わった。その香りと味は、土地の記憶そのものだった。しそ巻きは、宮城の風土と人情が形になった“食べる民俗”である。
