宮城県発祥の仙台土産「ずんだ餅」の由来とは?歴史や作り方・レシピ、作られた理由、村上屋などずんだ餅の有名店を紹介
宮城を歩くと、土地の文化や人々の暮らしがそのまま食べ物に映し出されていることに気づく。地域文化ライターとして各地を探訪してきた私にとって、食は単なる栄養ではなく、歴史や人々の想いを伝える「物語」そのものだ。宮城を代表する郷土菓子「ずんだ餅」もその一つである。鮮やかな緑色の餡をまとった餅は、仙台駅や土産店で必ず目にする定番品だが、その背景には深い歴史と文化が息づいている。
ずんだ餅は、枝豆をすりつぶして作る「ずんだ餡」を柔らかい餅に絡めたもの。牛タンや笹かまぼこと並び、仙台三大名物の一つとして全国に知られている。だが、なぜ枝豆を餡にして餅に絡めるようになったのか、その由来には諸説がある。豆を打ち砕く動作から生まれた「豆ん打」説、伊達政宗が陣太刀で枝豆を砕いたという説、農夫・甚太が考案したという説など、いずれも宮城の歴史や人々の暮らしと密接に結びついている。
私は仙台の老舗「村上屋餅店」を訪ね、実際にずんだ餅を味わった。鮮やかな緑色の餡は枝豆の粒感を残し、噛むほどに豆の香りが広がる。甘さは控えめで、餅の柔らかさと絶妙に調和していた。観光客だけでなく地元の人々も次々と訪れ、日常の中で愛され続けていることが伝わってくる。ずんだ餅は単なる土産ではなく、宮城の人々の暮らしを映す文化の象徴なのだ。
参考
農林水産省「ずんだ餅 宮城県 | うちの郷土料理」
宮城旬鮮探訪「宮城土産の定番「ずんだ餅」と伊達政宗公の関係とは⁉」
宮城県物産振興協会「宮城の名産品・ずんだ餅」
目次
ずんだ餅とは?
ずんだ餅は、宮城県を代表する郷土菓子であり、仙台三大名物の一つとして全国に知られている。枝豆を茹でて薄皮を取り、すり鉢で丁寧にすりつぶし、砂糖と塩を加えて作る「ずんだ餡」を柔らかい餅に絡めたものが基本の形だ。鮮やかな緑色の餡と真っ白な餅のコントラストは美しく、見た目にも爽やかな印象を与える。
宮城県では古くから餅を食べる習慣があり、正月や婚礼、法事など人生の節目に必ず餅が供された。くるみ餅、ごま餅、納豆餅、ふすべ餅など多彩な餅文化が育まれる中で、ずんだ餅は特に夏から秋にかけての枝豆の旬を活かした季節料理として親しまれてきた。お盆のお供えとしても用いられ、家族総出で枝豆をさやから取り出し、すり鉢で餡を作る光景は地域の風物詩だった。
現代では仙台駅や土産店で定番商品として販売され、観光客にとって欠かせない存在となっている。さらに「ずんだシェイク」や「ずんだ大福」などの新しいスイーツも登場し、若い世代にも広く受け入れられている。ずんだ餅は伝統的な郷土菓子でありながら、時代に合わせて進化を続ける食文化の象徴なのだ。
「ずんだ」の名前の由来・語源
「ずんだ」という名前の由来には諸説があり、地域文化の奥深さを感じさせる。最も広く知られているのは「豆ん打」説である。枝豆をすりつぶす際、最初にすりこぎで叩いて砕く動作を「豆打(ずだ)」と呼び、それが「ずんだ」に転訛したという説だ。豆を打ち砕く音や動作が名前に反映されている点は、生活の中から生まれた言葉らしい素朴さを感じさせる。
もう一つ有名なのが伊達政宗説だ。政宗が戦陣で陣太刀を使って枝豆を砕き、餅に絡めて食べたことから「じんだ」あるいは「ずんだ」と呼ばれるようになったという。食通で兵糧研究にも熱心だった政宗らしい逸話であり、仙台藩祖と郷土菓子が結びつくことで、ずんだ餅は一層地域の誇りを象徴する存在となった。
さらに、農夫・甚太が考案した「じんた餅」が政宗に献上され、気に入られたことから「じんた」→「ずんだ」と変化したという説もある。また、古語「糂汰(じんだ)」に由来するという学術的な説もあり、方言学者の小林隆はこの説を有力とする。糂汰は味噌の一種を指す言葉で、枝豆をすりつぶした餡にも適用されたと考えられている。
地域によって呼び名も異なり、宮城や岩手南部では「ずんだ」、山形では「ずんだん」、福島や秋田では「じんだ」や「ヌタ」と呼ばれる。呼称の多様性は、ずんだが広い地域で愛されてきた証であり、伊達政宗の支配領域や枝豆の栽培文化と密接に関わっている。
このように「ずんだ」の名前には複数の説があり、定説はない。しかし、いずれの説も宮城の歴史や人々の暮らしと結びついており、ずんだ餅が単なる菓子ではなく文化の象徴であることを示している。
参考
全国学校栄養士協議会「ずんだもち - 宮城県」
ずんだ餅の歴史と作られた理由
ずんだ餅の歴史を辿ると、宮城の人々の暮らしと深く結びついていることが分かる。枝豆をすりつぶして餡にするという発想は、農村文化の中から生まれたものだ。枝豆は夏から秋にかけて豊富に収穫される作物であり、栄養価も高い。ビタミンやタンパク質を含み、暑さで食欲が落ちる時期の栄養補給に適していたという。ずんだ餅は、そうした季節の知恵から生まれた郷土料理であり、農村の人々にとって生活を支える食べ物だった。
ずんだ餅は、宮城の餅文化の中で特別な位置を占めている。宮城県では正月や婚礼、法事など人生の節目に必ず餅が供される習慣があり、餅は人々の暮らしに欠かせない存在だった。くるみ餅、ごま餅、納豆餅など多彩な餅料理がある中で、ずんだ餅は夏の枝豆の旬を活かした季節料理として親しまれ、お盆のお供えにも用いられた。家族総出で枝豆をさやから取り出し、すり鉢で餡を作る光景は地域の風物詩であり、子どもたちもその作業に参加した。
こうして生まれたずんだ餅は、栄養補給としての役割だけでなく、家族や地域の絆を深める食べ物でもあった。枝豆の鮮やかな緑色は夏の風物詩であり、餅と合わせることで祝い事や供え物としても重宝された。現代では仙台三大名物の一つとして全国に知られるようになったが、その背景には農村の知恵、武将の逸話、そして宮城の餅文化が重なり合っている。ずんだ餅は、宮城の人々の暮らしと歴史を凝縮した郷土菓子なのだ。
参考
全国菓子工業組合連合会「ずんだ餅」
ずんだ餅の作り方・レシピ
ずんだ餅は、宮城県を代表する郷土菓子でありながら、家庭でも比較的手軽に作ることができる。基本の材料は、もち米と枝豆、そして砂糖と塩。枝豆は夏から秋にかけて旬を迎えるため、ずんだ餅は季節感を楽しむ料理としても親しまれてきた。
まず、もち米を炊いてつき、柔らかい餅を用意する。枝豆は塩を加えた湯で茹で、鮮やかな緑色が出たら冷水にとる。さやから豆を取り出し、さらに薄皮を一粒ずつ丁寧に取り除く。この作業は手間がかかるが、ずんだ餡のなめらかさを決める重要な工程である。次に、すり鉢に豆を入れ、すりこぎで潰す。完全にすり潰すのではなく、粒感を少し残すことで、枝豆特有の風味と食感が生きる。
潰した枝豆に砂糖を加え、塩をほんの少し加えて味を調える。甘さは家庭によって異なり、砂糖を控えめにして豆の風味を強調する場合もあれば、しっかり甘みをつけてお菓子らしさを出す場合もある。餡が完成したら、つきたての餅に絡める。餅の柔らかさとずんだ餡の爽やかな緑色が調和し、見た目にも美しい一品となる。
現代ではフードプロセッサーを使って簡単に餡を作る方法も広まっているが、すり鉢で丁寧に潰す昔ながらの方法は、枝豆の香りと食感を最大限に引き出す。家庭で作るずんだ餅は、家族総出で豆をむき、餡を作る過程そのものが楽しみであり、地域文化を体感する時間でもある。
実際に仙台でずんだ餅を食べてみた紀行
仙台を訪れた旅の中で、私はずんだ餅を食べ歩くことを大きな楽しみにしていた。駅構内から街角まで、至るところで鮮やかな緑色の餡をまとった餅が並び、観光客だけでなく地元の人々も手に取っている。ずんだ餅は仙台の風景の一部であり、夏の枝豆の香りをそのまま閉じ込めたような存在だ。
最初に足を運んだのは老舗「村上屋餅店」。全国メディアやローカルメディアでも引っ張りだこの有名店だ。行列に並び、ようやく席に着くと、目の前に運ばれてきたずんだ餅は豆の薄皮を一粒ずつ取り除いたという丁寧な仕事が光る逸品だった。口に含むと枝豆の香りがふわりと広がり、甘さと塩気のバランスが絶妙。付け合わせの漬物と交互に食べると、餅の甘みがさらに引き立ち、箸が止まらなくなる。ここで食べるずんだ餅は、仙台の人々が長年守り続けてきた味そのものだと感じた。
次に訪れた「ずんだ茶寮」では、名物のずんだシェイクを試した。バニラ風味のシェイクにずんだ餡を合わせた一杯は、なめらかでまろやか。枝豆のつぶつぶ感がアクセントとなり、飲みやすさと満足感を両立していた。観光客が笑顔でシェイクを片手に歩く姿は、仙台の新しい風物詩のように思えた。伝統的な餅から派生した新しいスイーツが、現代の仙台を象徴している。
さらに「エンドー餅店」では、秘伝豆を使った濃厚な「づんだ餅」を味わった。豆の風味が強く、つぶつぶ食感が心地よい。昔ながらの製法を守る姿勢に、地域文化を継承する誇りを感じた。仙台東照宮の近くにあるこの店は、歴史ある街並みとともにずんだ餅を楽しめる場所であり、旅の記憶に深く刻まれた。
仙台の街を歩きながら、私はずんだ餅が単なる甘味ではなく、人々の暮らしと歴史を映す文化の象徴であることを実感した。枝豆をすりつぶす手間を惜しまない姿勢、餅と漬物を組み合わせる食べ方、そして新しいスイーツへの挑戦。ずんだ餅は仙台の人々の知恵と工夫、そして誇りを凝縮した一品なのだ。
参考
ずんだ茶寮「ずんだシェイク」
エンドー餅店「極みづんだ餅 5個入」
仙台駅周辺で食べられる・買えるずんだ餅の店
仙台駅周辺は、ずんだ餅を楽しめる名店が集まる一大スポットだ。観光や出張の合間に立ち寄れるアクセスの良さも魅力で、伝統的な味から新しいスイーツまで幅広く揃っている。
まず外せないのが ずんだ茶寮 仙台駅ずんだ小径店。菓匠三全が展開する人気店で、定番のずんだ餅はもちろん、全国的に話題となった「ずんだシェイク」が看板商品。バニラシェイクにずんだ餡を合わせた一杯は、枝豆の風味と甘さが絶妙で、仙台観光の定番となっている。駅構内にあるため、旅の始まりや終わりに立ち寄りやすい。
次に紹介したいのは 仙台ひとくちずんだ餅本舗。一口サイズのずんだ餅を販売しており、食べ歩きやお土産にぴったり。枝豆の風味を活かした餡と柔らかい餅のバランスが良く、手軽にずんだ文化を体験できる。エスパル仙台にも店舗があり、買い物の途中に立ち寄れるのも便利だ。
もちべえ仙台駅店は、地元で親しまれる和菓子屋。ずんだ餅だけでなく、くるみ餅やごま餅など多彩な餅菓子を揃えている。昔ながらの製法を守りつつ、駅ナカで気軽に購入できる点が魅力だ。
さらに駅構内には ずんだ茶寮 シェイクエクスプレス店 や 菓匠三全 ずんだ茶寮 エスパル仙台店 もあり、シェイクやロールケーキなど多彩なずんだスイーツを展開。新しいスタイルでずんだを楽しみたい人におすすめだ。
最後に紹介するのは 喜久水庵 ずんだスタンド。老舗茶舗「お茶の井ヶ田」が手がける新業態で、ずんだスイーツやドリンクをワンハンドで楽しめる。ずんだラテや飲むずんだ餅など、新感覚の商品が揃い、観光客に人気だ。
仙台駅周辺は、伝統と革新が共存するずんだ餅の聖地とも言える。なお、大崎市にもずんだ餅の名店があり、そちらについては別記事で詳しく紹介している。仙台と大崎を巡れば、宮城のずんだ文化の奥深さをより深く味わえるだろう。
まとめ
ずんだ餅を探訪する旅を通じて、私は宮城の食文化の厚みを改めて感じた。鮮やかな緑色の餡をまとった餅は、見た目の美しさだけでなく、枝豆の香りと甘さが調和した味わいで人々を魅了する。仙台駅や街中の店で気軽に味わえる一方、老舗では手間を惜しまない職人技が光り、伝統の味を守り続けている。
ずんだ餅の名前の由来には「豆ん打」説や伊達政宗説、農夫・甚太説など多様な説があり、いずれも宮城の歴史や人々の暮らしと結びついている。豆を打ち砕く音や動作から生まれた言葉、戦国武将の逸話、農村の知恵。ずんだ餅は単なる菓子ではなく、地域の記憶を映す文化の象徴なのだ。
仙台の街を歩きながら食べたずんだ餅は、店ごとに個性があり、味わいも異なる。村上屋餅店の濃厚な餡、ずんだ茶寮のシェイク、エンドー餅店の秘伝豆の風味。それぞれが仙台の文化を体現していた。さらに新しいスイーツやアレンジ商品も登場し、ずんだ餅は時代に合わせて進化を続けている。
宮城県は餅文化が根付いた土地であり、正月や婚礼、法事など人生の節目に必ず餅が供された。ずんだ餅はその文化の中で育まれ、今では仙台三大名物の一つとして全国に知られる存在となった。伝統と革新が共存するずんだ餅は、宮城の誇りであり、未来へと受け継がれるべき文化の象徴である。
旅を終えて振り返ると、ずんだ餅は宮城の人々の暮らしと歴史を凝縮した一品であることを実感した。仙台と大崎を巡り、ずんだ餅の奥深さを味わうことは、宮城の魅力を知る最良の方法のひとつだろう。
投稿者プロ フィール

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地域伝統文化ディレクター
宮城県出身。京都にて老舗和菓子屋に勤める傍ら、茶道・華道の家元や伝統工芸の職人に師事。
地域観光や伝統文化のPR業務に従事。
